2005年11月05日

川上哲治氏、大いに語る

[ 野球 ]

 CSのフジテレビ739で「さらば、愛しきプロ野球・・・」という番組が始まりました。番宣を見ると、いきなりこの番組は、日本のプロ野球の礎を築いた彼らがプロ野球に叩きつける決別状である。で始まり、プロ野球はまさしく国民の夢だった。あのころの熱狂は戻ってこないのか?? (中略)そして何より、今のプロ野球界に対する厳しい提言、視聴者に対するメッセージ。 現役選手には直立不動で見て貰いたい、永年保存版の番組。という文章があります。どうやら、かつての「ON時代」あたりを、「黄金期」と捉え、それに対し、読売戦の視聴率低下などが騒がれる現在のプロ野球界を先達が憂いる、という感じの概念のようです。
 ところが、第一話の出演者である、かつての「打撃の神様」「V9監督」であり、今年は「マリーンズ専属解説者(?)」として活躍した川上哲治氏は、番組制作者の意図に沿った発言はしませんでした。

 冒頭で読売球団の不振を嘆くものの、「今は大差をつけられると、逆転の見込みなしと見て、TVを切る。昔は何点差でも逆転の可能性があった」といった程度のもの。また、読売の問題点についても、「四番ばかり補強している。足のある選手や守備やつなぎが得意な選手だって必要だ。家だって、大黒柱だけでは建たない」という、これまた至極自然なものです。
 もっとも、今の権力をそのままに、先発・中継ぎ・抑え・巧打者・足や守備のスペシャリストまで満遍なく補強されたら、「毎年が2002年の日本シリーズ」となってしまいます。そう考えると、ここ数年の「四番コレクション」は球界のためには「有益」ではあったわけですが。もちろん、根源的な問題は、現在の「金があれば有力新人もFA選手も他球団の主力外国人も獲り放題」という制度そのものにあるわけですが・・・。

 閑話休題。話のほうは、川上氏の選手・監督時代の逸話に移っていきます。自らの現役時代の「球が止まって見えた」に関する逸話や、投手で入団しながら一塁手になった経緯。さらに、V9監督時代のONの扱い方・打順選定での工夫については、飾る事なく、率直に語っています。特に興味深かったのは、江夏投手への対策のために、普段は一番を打っていた柴田選手を四番に起用。すると見事本塁打を放った、という話でした。今の言葉を使えば「川上マジック」とでもなるのでしょうか。
 というわけで、改めて選手としても監督としても超一流だった、川上氏の過去を知ることができます。
 しかしながら、川上氏は過去を不必要に美化し、安易に現在のプロ野球をけなすような事は一切しませんでした。たとえば、イチロー選手の「自分は不調な時は、わざと芯を外し、内野の前に落としたり、頭を越したりして安打にするようにしている」という話を紹介し、「私は『打撃の神様』と言われたが、明らかにその上を行っている」と絶賛しました。スター選手の「メジャー流出」についても、「優れた選手がメジャーで力を試すのはいい事だ。もし失敗すればまた日本に戻ってくればいいい。メジャー流出で抜けた『穴』は、若い選手を新たに育てればいい」と度量の広さを見せます。
 さらに、球界再編などに関しても、「2リーグ制のほうがいいに決まっている。また、交流戦などでセとパが協力する事はいい事だ。自分の頃はいがみあっていた」と現在の努力を評価。さらに、「現在のパリーグはフランチャイズ制を生かしている。マリーンズの応援ははその象徴とも言える。かつてと違い、パがセの先を行っている。セはいつまでも読売におんぶされているようでは・・・」とこれまた最新の野球事情をしっかり分析していました。さらに、運営機構についても、「法律家が前面に出るのではなく、現場経験者が先頭に立ち、それを法律家などが助言をする形がいい」と現在の無為無策のコミッショナーをやんわりと批判。さらに、具体的な運営者として、「年をとった時の古田くん」と具体的な名前を挙げていました。
 感心させられたのは、その前向きな姿勢です。何度か「そのような形でプロ野球が発展するのが私の夢だ」と言われていました。これほどまでに功績を残した人が、この歳でまた、野球界に対して明るい夢を語るわけです。見習いたいとつくづく思いました。
 最後に、「現在の野球選手への提言」を尋ねられた時も、「プロとしての技術を身に付け、それぞれが、自分の与えられた役割を最後まで責任を持ってやるように」との事。「現在の野球選手へ」と言うよりは、いつの時代にも、どんな職業の人にも当てはまる至言です。
 番組制作者の宣伝文句とはかけ離れた内容になってしまいました。しかし、一野球ファンとしては非常に感心・共感できるものでした。

 冒頭に書いたように、川上氏は今季のマリーンズ戦を何試合か解説していました。その内容は非常に的確でした。特に秀逸だったのは、7月のライオンズ戦の解説の時にサブロー選手の打撃を見て、「このチームでは福浦選手に次ぐ打撃の技術を持っている」と明言。8月以降の大活躍を予言していたわけです。
 その的確さは、そのまま野球界全体の視点にも当てはまっていました。期待はしていましたが、それ以上の内容でした。
 それにしても、この年でこれだけの観察力・分析力を持ち、かつ、選手としても監督としてもトップクラスの実績を持った川上氏が、かつて所属した読売球団からは冷遇されているそうです。いかにも読売球団らしいとは言えますが、非常に寂しい話でもあります。

2005年11月05日 19:27