リーグ優勝を決めた試合。今年、マリーンズは二軍もあわせると6回の「優勝」を果たしたが、その中でも一番印象に残ったのは、アジア一でも日本一でもなく、この「パリーグ一」だった。
この試合は、福岡ドームで行われているものを、マリンスタジアムのパブリックビューイングで見ていた。2・3回に1点ずつ取られ、6回に福浦選手の適時二塁打で1点を返したものの、続く1死2塁の同点機に4・5番が打ち取られ、追いつけない。
さらに7回、二番手の吉武投手相手に、2死1塁で大塚選手の打席。ここでバレンタイン監督は代打で李選手を起用した。左打者を出せば、ホークスが三瀬投手を出してくる事は分かっている。李選手は対左の打率が極端に低いから、そうなれば「代打の代打」だ。そして、予想通りの展開となり、この接戦にも関わらず、李選手は打席に立つ事もなく、垣内選手に交替した。本塁打・打点のチーム二冠王を相手の投手交替をさせるための「当て馬」にしたわけだ。
しかも垣内選手は、シーズン終盤から不振をかこっていた。年齢も年齢だし、来季の契約すら微妙な状況。しかし、ここでは期待に応え、左翼手前に落ちる安打を放ち、二死1・3塁とした。自らの手で選手生命を救ったような安打とも言えるだろう。
この絶好機に登場するのは、前の回で安打さらには盗塁し、1点差となる本塁を踏んだ西岡選手。得意の三塁打が出れば一気に逆転する。そのため、マリンスタジアムは当然ながら大きな盛り上がりとなった。そして、西岡選手の打球は三瀬投手の球を捕らえて外野へ。しかし、左翼手のカブレラ選手が判断良く突っ込んできてダイレクトキャッチ。マリンスタジアム全体が落胆の雰囲気に包まれる。それは、一塁に達していた西岡選手も同様だった。あまりの悔しさに塁上に座り込み、しばらくそのままだった。
ここまで策を凝らし、しかも的中したにも関わらず、あと1点が入らない。2連勝後2連敗というシリーズの流れもあり、この時点では敗戦を覚悟していた。そしてその裏、1死から鳥越選手が歩き、的場選手が送って、一昨日にサヨナラ打を放っている川崎選手にまわる。そして川崎選手は1・2塁間に鋭い打球を飛ばす。「ダメ押しか・・・」と思った時、その打球は二塁の早坂選手が横っ飛びでつかんだ。早坂選手は堀選手の腰痛で急遽この試合で「今年初の一軍戦出場」を果たしている。その選手が、この大舞台で美技を見せ、追加点を防いだのだ。
そしてむかえた8回表、打順は先ほどの美技の早坂選手から。しかし、バレンタイン監督はここで代打を送った。登場したのは初芝選手だった。既に引退セレモニーまで済ませている初芝選手。その時に、「日本シリーズを制してバットを置きます」と語っている。しかし、それを実現させるには、残り2回で2点以上取るよりない。
マリンスタジアムの熱気も最高潮になる。しかし、その打球は当たり損ねの三塁ゴロだった。誰もが一死を覚悟しただろう。しかし、その直後、信じられないような光景が起きた。三塁手のバティスタ選手と川崎選手がぶつかり、バティスタ選手は何とか一塁に投げたもののセーフとなった。当たり損ねとはいえ、初芝選手の足を考えれば、慌てる必要のない打球だ。にもかかわらず、今季何十試合も三遊間を組んでいた二人の呼吸があわなかったのだ。本来なら、「プロ最後の打席」となるところだったのが、一転して「同点の走者」になってしまった。
この作っても生じないような一つのプレーで試合の流れは変わった。続く福浦選手が安打で1・2塁とする。右打者が続く事もあり、ホークスは抑えの切り札の馬原投手を投入する。対して4番のサブロー選手が倒れたものの、続く里崎選手の打球は、左中間を真っ二つに抜いた。二塁の初芝選手がまず生還して同点、そして一塁からも福浦選手が本塁へ突入する。これで3対2と逆転した。マリンスタジアムの大画面で、里崎選手の打球がフェンスに達したのを見た時、一瞬、時間が止まったような不思議な感じだった。
その裏は薮田投手が四球を二つ出したものの無失点に抑え、いよいよ9回裏。マウンドには二日前に大逆転を喫した小林雅英投手が上がったた。もちろん、1点差な上に相手はホークス打線なので不安はあった。しかし、初芝選手の安打から始まったのだから、今日は大丈夫だろう、という非論理的な根拠による「安心感」があった(もっとも、二日前の登板の時も、最初は安心して見ていたわけだが・・・)。
そして、1死2塁と一打同点、一発サヨナラの危機は作ったが、そこから後続を絶ち、最後は川崎選手を左飛に打ちとって試合終了。その瞬間、マリーンズの優勝が決まった。
優勝した事自体が嬉しいのはもちろんだ。しかし、この試合においては、「優勝したこと」のみならず、初芝選手の内野安打とそれをきっかけにした逆転劇、さらにはその直前の7回の表裏の攻防がそのものも、非常に印象に残った試合となっている。
試合当日に書いた記事−初芝選手の内野安打をきっかけに逆転し、リーグ優勝。