大幹線の裏ルート

2006/10/8 追記・2011/4/22

 京成バスの運営する幕張本郷と海浜幕張を結ぶ幕01系統および、通勤時の派生路線幕03は、平日の運行本数が255本という、日本でも有数の本数を誇る大幹線である。
 この大手私鉄系の超大型路線に対抗(?)する形で、平和交通と千葉シーサイドバスという地元独立系の2社が、2006年の春から夏にかけ、相次いで別経路の新線を開業した。
 京成バスの路線は、両駅を結ぶ大通りを通り、起終点を含め、7つのバス停で二つの駅を結んでいる。それに対し、新設路線は途中で住宅街を経由し、バス停は11ある。そして運賃は京成が210円なのに対し、2割5分近く安い160円となっている。同じ駅間を結ぶ路線で、これだけ運賃に差が生じる、というのも珍しいのではないだろうか。
 一方、本数のほうは、値段以上の大差がある。千葉シーサイドバスは平日15本・休日7本、平和交通に至っては平日10本で土日は運休だ。したがって、平日は10倍以上、土日に至っては20倍以上の本数差がある。
 この構図、一見すると、大路線バスに地元二社が協力して挑んでいる、というようにも見える。ところが、乗ってみると、この二社の関係が今ひとつ分からない。なんか偶然、同じ路線をそれぞれ開業させた、という感じなのだ。

 その路線に土曜の夕方に乗ってみた。発車時刻は16時35分だが、早くもこれが「終バス」だ。バス停は、京成の海浜幕張行とちょうど点対称の位置にある、駅からの出口から一番遠いところだ。発車10分前に着いたら、老婦人が二人バス停で待っていた。このバス停の雰囲気からして、京成バスの海浜幕張行と全然違う。
 しかし、そのバス停に来たのは、大型の低床バスだった。これは京成でも同じものが使われている。そして、窓には「幕張本郷駅−海浜幕張駅 160円」という文字が貼られている。また、車内はまだ塗料のにおいが残るまっさらな新車だ。また、全線160円均一なのだが、運転席の左上には運賃表示の液晶カラーモニタがあり、しかもそのモニタは次のバス停のみならず、画面下にはニュースまで流れている。やはり価格差で京成バスの客を奪おうという意思があり、そのためにも京成よりモニタのいい新車を投入した、という事なのだろうか。
 乗った時は、この大型新車に3人か、と思ったが、発車間近に5人くらいの人が乗り込んできた。着席率は5割弱といったところだろうか。
 発車してしばらくは、京成バスと同じ道を進む。しかし、国道14号の交差点のところで、陸橋に入らず、14号に入る。そこで陸橋の脇の道に入るのだが、路肩に違法駐車と思われる車が数台止まっている。そこで、バスは細心の注意を払って運転していた。このあたり、大型バスゆえの不便さとも言えるかもしれない。
 そして国道14号を幕張方面に進む。ここを乗り合いバスが通るのは、今はなき高速道路経由で長作町と海浜幕張を結ぶ路線以来だろう。しかし、そのバスが14号を直進したのに対し、こちらは、しばらく進むと分岐する二車線の道に入った。そしてすぐ、最初のバス停「ウインダムヒル」に到着する。さらにそこから、幕張一丁目・下八坂橋・幕張二丁目・幕張三丁目と進む。
 しかし、このあたりのバス停の配置はかなり奇妙だ。幕張一丁目で一人下りたのでバスは止まる。しかし、近辺に上りの幕張本郷駅行のバス停はない。しばらく進むと、上りのバス停が見えたのだが、それから数秒後に次のバス停「下八坂橋」に到着した。つまり、幕張一丁目の上りバス停に一番近い下りのバス停は幕張一丁目でなく、下八坂橋なのだ。この奇妙な配置が、幕張二丁目まで続き、幕張三丁目でやっと、上りと下りのバス停がほぼ同じ所に揃った。
 そこからしばらく進むと、幕張駅と海浜幕張駅を結ぶ既存の路線と合流。そのまま幕張四丁目・イトーヨーカドー・総合教育センター・テクノガーデンと進む。このテクノガーデンで乗客の半数が下り、しばらく進むと終点の海浜幕張駅に着いた。
 所要時間は20分ほど、京成よりはちょっと時間がかかっているが、道の広さと停留所の数を考えればこんなものだろう。

 帰りも同じ路線で戻ることにした。このバスが発着するバス停は千葉シーサイドバスの他路線も含め、多数の系統のバスが共用している。そして、この幕張本郷駅行となったバスが到着すると、そこで待っている10人弱が乗車した。
 同じ道を戻るのだが、今度は渋滞に引っかかってなかなか進まない。しかし、しばらく行くとすぐに順調になり、行きと同じ経路で戻っていった。途中の乗降も少しあったが、海浜幕張駅から乗った客のほとんどは幕張本郷まで乗り通した。本数は少ないながら、「京成より安いバスがある」というのが一部では認識されている、という事なのだろう。

 さて、一往復を乗り通したのだが、乗っていていろいろ不思議な事があった。最初に書いたように、この路線は千葉シーサイドバスと平和交通が走っている。しかも本数は両方合わせて平日25本と少ない。このように、同じ路線を二つ以上のバス会社が使うこと自体は珍しくない。しかし、そういう場合、基本的にその二つのバスが一つの路線として扱い、共通定期券や回数券を出す。もちろん、バス停も共用だ。
 ところがこの路線の場合、全てのバス停にそれぞれ千葉シーサイドバスと平和交通のポールが立っているのだ。しかもよく見ると、料金が微妙に違う。ともに起点から終点まで乗り通すと160円だが、シーサイドが全区間均一に対し、平和交通は途中までだと150円なのだ。しかも、均一運賃のシーサイドが後乗りで、変動運賃の平和交通が前乗りと、普通とは逆の運用となっている。
 この一つの停留所に二つのポール、というのは全バス停で使われている。海浜幕張駅前に至っては、乗り場が全然違うところにあるのだ。二社あわせて1日25本しかない事を考えるとちょっと奇妙だ。さらに面白いのは、バス停の名前が微妙に違うことだ。幕張一丁目から三丁目まで、シーサイドは「幕張」だが平和交通は「幕張町」なのだ。実際の住居表記は「幕張町」が正しい。にも関わらず、シーサイドが「町」をつけないのには、ちょっとした理由があるようだ。
 幕張三丁目までは、両社のバス停はポールこそ違えど同じ所にある。ところが、その次のバス停は両社で名前が違う上に、海浜幕張行は場所も異なる。シーサイドバスでは幕張駅方面と海浜幕張を結ぶ道に入る直前に「幕張四丁目」があるのだが、平和交通はその道に入ったところに「幕張公園前」があるのだ。なお、幕張本郷行だと、この「幕張四丁目」と「幕張公園前」は同じ場所にある。
 この微妙な相違の理由は幕張本郷行に乗ってイトーヨーカドーバス停に行くと分かる。このバス停は、シーサイドバスと平和交通の「イトーヨーカドー」の他に、京成バス・幕21「幕張学園循環路線」の「幕張町四丁目」のバス停がある。そして、シーサイドバスではその次のバス停が「幕張四丁目」になるわけだ。これは、2005年にシーサイドバスが幕張駅北口−海浜幕張駅路線を開通させた時からこうなっている。ちなみに、このシーサイドバスの「幕張四丁目」は京成幕張駅の最寄りバス停でもある。しかしながら、「京成幕張駅入口」ではなく、あえて京成に対抗するがごとく「幕張四丁目」と名乗っている。
 どうやら、同じ区間の路線を運営しているわけだが、シーサイドバスと平和交通では、京成バスに対する意識が微妙に異なるようだ。シーサイドバスは京成の「幕張町四丁目」と同じ場所に「イトーヨーカドー」を設置し、その一つ隣に「幕張四丁目」を設置した。あたかも京成バスに「こちらのほうが現実的だから、あわせてそちらも改称しろ」と言っているような感じだ。対して、平和交通はそこだけ競合しないように「幕張公園前」にしているわけだ。
 この事を考えれば、「幕張」と「幕張町」が違う理由も分かる。シーサイドバスが「幕張町四丁目」と競合しないために「幕張四丁目」とし、それを他の「幕張」にも継承させている。対して平和交通は「四丁目」を競合させなかったため、他の「幕張」も住居表示通り「幕張町」としているわけだ。
 つまり、シーサイドバスは京成バスと真っ向から張り合おうという姿勢を見せているのに対し、平和交通はある程度京成バスにも気を遣ってバス停を設置しているという感じなのだ。さらに、シーサイドバスと平和交通にもお互いにも対抗意識があるようだ。
 二社あわせて一日30本にも満たない路線ながら、いろいろな思惑があるようだ。沿線風景や車内の雰囲気のみならず、そのような事も感じる事ができる、なかなか面白い「裏ルート」往復だった。

追記・というわけで、しばらくは同じ場所に「イトーヨーカドー」と「幕張町四丁目」が並んでいた。
 その後、京成バスが海浜幕張−京成幕張の路線を新設した際に、ここにできたバス停は「イトーヨーカドー」となり、ついに京成バスが「妥協」した。そしてしばらく後に、幕張本郷行きのバスも「幕張町四丁目」を「イトーヨーカドー」に改称し、千葉シーサイドバスが京成バスに「勝利」した。
 ただ、バス停名称では勝ったものの、乗客は伸びず、千葉シーサイドバスは土日の運転を早々と終了。そして、2011年5月より、平日朝に海浜幕張発幕張本郷行きが一本、その戻りとして幕張本郷発幕張駅行きが一本のみ、というダイヤになった。実質的な撤退と言えるだろう。
 なお、平和交通のほうは、開業当初の「平日のみ1日10本」を維持し続けている。

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