渋谷と経堂を結ぶバス

2006/01/18

 25年ほど前に、半年ほど世田谷区経堂に住んだ事があった。駅の南口から農大通りという商店街を抜けて、しばらく行ったところに家はあった。この商店街は、どこにでもある普通の駅前商店街で。通りは一車線の一方通行だ。ところが、ある日駅に行こうとしたら、その通りをほぼふさぐくらいのバスが駅に向かって走っているのを見た。それが今回の主題である渋谷駅−経堂駅を結ぶ東急バスであった。
 生まれ育った町の中野区野方にも一車線の一方通行を塞ぐようにバスが走る道はあった。とはいえ、野方のが住宅街の中の道であるのに対し、こちらは駅からのメインストリートとも言える商店街である。人通りはかなり多い。本数は少ないとはいえ、そのど真ん中をバスが通るのだから、驚かされた。
 ある日、渋谷に行った時、そのバスに乗ろうとした。駅前広場の路線図とバス停案内図を見て経路と乗り場を確かめる。それによると、経堂駅行きは、西口出口からすぐの所にあった。
 ところが、このバス乗り場はかなりすごい環境だった。一つ隣には、この路線と同じ経路で、少し手前の上町駅で折り返す路線のバス停がある。こちらは、バス停に行列ができており、時刻表を見るとかなり本数も多かった。都心との直通電車がない世田谷の中心部と渋谷を一本で結ぶだけに、需要があるわけだ。
 ところが、その兄弟路線とも言える経堂駅行きのバス停は、えらく扱いが悪かった。バス停は歩道橋のすぐ下にあるのだが、その歩道橋の階段下にはゴミ袋が積んであり、並んでいるとその臭気が漂ってくるのだ。当時の渋谷駅周辺のゴミ事情はよくわからいのだが、なぜ夕方だというのに、こんなにゴミが積まれていたのか、今でも非常に不思議だ。
 兄弟路線とはいえ、一つ隣の上町駅行きは、乗客の行列ができて賑わっているのに、こちらは、行列は行列でもゴミ袋の行列ができている。なんかその対照的な姿に、物悲しさを感じた。

 バスのほうは、渋谷を出ると246号の大通りを三軒茶屋に行き、そこで曲がって今度は東急世田谷線に沿うような形で進む。乗った時はかなりの乗客がいたが、だんだんと降りていき、上町駅を過ぎたらガラガラになった。このガラガラぶりを見ると、確かにあの臭気漂うバス停をあてがわれるのも無理はないかと思った。
 そして、宮之坂駅のところで曲がり、「商店街入口」とかいう名前のバス停を曲がると、最初に書いたように、狭い商店街に入った。当時の我が家に帰るには、「入口」で降りたほうが近いのだが、折角だから終点まで乗ってみた。
 床の高いバスから眺めると、普段の目線とはちょっと違う商店街の姿が見える。その眺めに喜んでいるうちに、終点である駅前についた。
 短い経堂生活だったが、この、商店街の真ん中をバスが通るのは、かなり印象に残った。ただ、やはり経営は厳しかったようで、引っ越してしばらくしてから、渋谷のバス停を見に行くと、経堂行きは廃止になっていた。
 そして先日、久々に、かつての経堂駅行きバス停跡地へ行った。そこには、洒落た形をした小型のバスが止まっていた。なんでも東急トランセという子会社が運営している代官山を一周する100円バスとのことだった。かつてと違って、行列ができており、隣の上町行きと遜色がなかった。もちろん、バス停周辺も整備され、ゴミ袋などどこにもなかった。

 なお、この路線は、1970年代までは、都営バスとの共同運行で、渋谷からさらに青山通りを通って赤坂見附まで行き、そこから外堀通りを虎ノ門に、さらに霞ヶ関の官庁街を抜けて東京駅まで達していたそうだ。日本の中心のビル街から商店街の真ん中まで走っていたと考えると、より一層味のある路線だったのだろう。

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