「ファンサービス」に必要な視点

2007/4/8

 かつて、ロッテ球団の宣伝といえば、「テレビで見れない川崎劇場」などという、自虐ギャグみたいなものだった。筆者も、かつて何度か川崎球場で当時のオリオンズ戦を観戦した事があったが、その球場のみすぼらしさは、別の意味で好きになるくらいのものがあった。
 しかし、1991年の千葉移転にともない、球団はいろいろ変わっていった。特に2004年にかつて好成績を挙げたにも関わらず一年で解雇したバレンタイン監督に復帰してもらった頃から、その変化は顕著になった。実際、元々それぞれセリーグ球団を応援していた我々も、この年を機に、「マリーンズファン」になることにした。
 そして、その後も地元を中心に人気は上昇。バレンタイン監督復帰のみならず、着実な選手の成長・補強により、チーム力も上がった。そして2005年には日本一になった。そして、営業面でもさまざまな企画を行い、観客動員数も着実に増えた。

 その球団のファンサービスには、楽しむと同時に感心させられる事が多かった。ところが、最近になって、何か勘違いしているように思われる企画が増えた。たとえば、昨年のファン感謝デーは、何時間もかけて、「投手にホームラン競争をやらせる」などの「紅白戦」をやっていた。その内容にバレンタイン監督が怒りだし、イベントを無視してひたすらファンにサインをし続ける、などという事態が発生した。
 毎年1月恒例企画のプレナ幕張でのイベントなどもその流れをくんだものだった。これまで「前菜」だった、キャラクターとチアガールのショーが「主菜」に昇格(?)し、選手のトークショーと同じくらいの時間をかけてやっていた。最後のほうは、見ていて「まだ続くのか・・・」と思うほどだった。
 そして、自分は行けなかったのだが、開幕直前に「急遽開催」した決起集会ではさらにその傾向が顕著になったようだ。延々とキャラクターとチアガールの踊りを見せて、肝心の選手の登場はほんの数分。あまりの事にファンがため息をもらし、急遽里崎選手が「ライブ」を実行したほど。清水直行投手もブログ上で「謝罪」したほどだった。
 なんか違和感を感じながらも、今年もマリンスタジアムに通い出した。その2試合目となった先日、個人的にかなり奇妙な経験をした。おかげで、感じていたこの「変調」の要因を理解することができた。好きな球団を悪く書くのは本意ではないが、今後、同様のサービスを受ける人の参考になるかもしれないので、書いてみた。

 今年から、マリンスタジアムの「新サービス」として、「野球観戦をしながらマッサージ」というものが登場した。左翼席上の業務用で使われているバルコニーにマッサージのチェーン店を誘致する、というものだ。ちょうど先日来から肩こりに悩まされている事もあり、やってみることにした。
 「左翼席上」というのはさんざん宣伝している。そこで、とりあえず、そちらのほうに行けば案内はあるだろうと思い、内野席の左翼側に向かった。ところが、それらしき場所にたどりついた所、係員はいない。そこには、待合い用のベンチと「受付はDゲート近くで」と書かれた紙が張られているだけだった。今いる場所は内野席と外野席の境目であるポール際。一方、Dゲートはバックネット裏に位置する。というわけで、球場を3分の1周するような形で、記載された場所に行った。
 そこにあったのは、球団パンフである「マッチカードプログラム」の販売ブースだった。実は、球場に入った時点でここでマッチカードプログラムを購入している。その時点で既に今日はマッサージを受けるつもりだった。となると、普通はそこで気づくとしたものだ。ところが、販売ブースの脇に、マッサージの幟が立っているものの、片隅に目立たなく置いてあるだけだ。したがって、先ほど来たときは気づきもしなかった。そして、実際に申し込む時も、机に何もそれらしきものがなく、「マッサージの受付はここでいいのでか?」と確認したほどだった。
 ただ、手続きそのものは簡単に行えた。時間は試合開始と同じ13時にした。そして予約券を貰い、「5分前には来てください」と言われた。そして一度席に戻り、言われた通り、12時55分には最初に行った場所に着いた。
 しかし、5分たって13時になっても誰も来ない。球場内からは試合が始まった音が聞こえる。球場に来て試合が見れないのもなんだかな、と思いつつ、さらに数分待った。しかし状況は変わらない。しかたないので、三度100mほど歩き、マッチカードプログラム販売所へ行った。
 事情を説明するが、相手の対応は要領を得ない。こちらに何の落ち度もなく、明らかに先方の不手際だが、謝罪の一言もなければ、頭を一つ下げるわけでもない。もめ事のようになっているのを見て、他の担当者も来た。どうせ試合が始まり、マッチカードプログラム販売所に二人以上張り付ける必要はない。ならば、一人が筆者を案内して「店舗」まで連れていくのが筋だと思うが、そのような意図は毛頭ないらしい。
 さすがの筆者もかなり腹が立った。しかしながら、ここでもめ続けて試合を見る時間が減るのは本意ではない。呆れつつも四度100mちょっと歩いて三度目となる店舗前受付に行くと、携帯電話を持った店員氏がちょうど降りてきた。やっと連絡が取れたのだろう。
 そして、雑巾の干してある関係者通路を通って、「店舗」に着いた。バルコニーとなっている部分のうち、店として使っているのは1/3くらい。ならば、余った部分に待合い用のベンチを置いておけば、待っている人も試合を見れるのだが、そんな発想はないらしい。
 マッサージ自体は、まあ特に問題はなかった。また、宣伝文句通り、「マッサージを受けながら試合観戦」というのはなかなか面白いものがあった。ついでに言うと、左翼席の上という位置がら、普段近くで見る機会のない、相手球団の応援をすぐそばで見れる、というのも面白かった。

 というわけで、企画の本体である「試合を見ながらマッサージ」は楽しめた。しかしながら、言うまでもなく、満足はできなかった。もちろん、「受けた予約を店舗に伝える」さらに「失敗したにも関わらず、客に説明も謝罪もしない」という最低限の事をきちんとできなかった受付担当者が最大の原因だ。しかし、なぜそんな事が発生したかまで考えると、個人の資質だけではすまない、別の問題が見えてくる。
 一般常識で考えて、受付と店舗が100m以上離れていて、何かあるたびに、客がその間を行き来する、などという設計のマッサージ店などないだろう。しかも、その間に案内すらつかないのだ。
 待合いのベンチについてもそうだ。対象となる客は全て野球観戦者だ。にも関わらず、野球を見ることができない場所にベンチを置いているわけだ。しかも、野球の見える場所にもベンチは置ける。
 確かに、「野球観戦をしながらマッサージ」というサービスは提供できている。しかし、そこに至るまで、客にどのようなサービスを提供するか、という考えは全くもって存在しないわけだ。そして、そのような事をしたら客がどう思うか、などという想像力も欠如しているようだ。
 これをあてはめると、先述したイベントの問題がどこにあったかも分かる。ファン感謝デーで「紅白戦」という企画を立てるのはいいかもしれない。しかし、何時間もかけて見せられる来場者はそれをどう思うか、という視点はかけている。
 「決起集会」もしかりだ。確かにシーズン開始前にそのような企画を行うのはいいだろう。しかし、それを行うに当たって、出席したファンは何を見に来るか、という視点はない。もちろんそれはキャラクターやチアガールのダンスではないのだ。さらに、そのような事を延々とやり、やっと選手が来たと思ったら数分で退場、という事をしたらどう思われるか、という視点もない。
 最初の頃は、球団側も「客にどうやって楽しんでもらえるか」を考えて各企画を立てたとは思う。ただ、回を重ねていくと、いろいろ変わるのだろう。マンネリ化を恐れるあまり、「前回と違うことをやろう」という考えが強くなる、というのもあるだろう。また、ある程度の集客を見込めると、その客を元に何らかの収益を出そう、という意図も出るだろう。たとえば、1月のイベントで延々と行われたキャラクターショーでは、関連会社製品であるホカロンの宣伝を随所に含めていた。
 日々改めていくというのは悪くない。しかし、どうもその中から、これらの企画の根本である、「せっかく来たファンにつまらない思いをさせない」という視点が抜け落ちてしまっては意味がないのだ。

 もちろん、企画が全てつまらなくなったわけではない。最近でも、1月2日に行った初投げ会などは、その発想の斬新さとファンのニーズをよくとらえている、という点で感心させられた。
 つまり、発想力とかが衰えているわけではないだろう。「シーズン開始前の決起集会」にせよ、発想自体は悪くない。ただ、基本中の基本が抜けてしまうと、今後どんな企画をやっても効果がないどころか、逆効果につながる危険性すらある。
 数年後、「2005年前後には一過的なブームが生じたが、すぐに元通りに戻った」などと言われないためにも、ぜひとも原点に戻ったファンサービスを行ってほしいものだと切に思う次第だ。
※なお、このマッサージの仕組みは、現在は改善されている。