ハシラの説明によると、長井氏が漫画界復帰を目指すため、今回で最終回との事でした。
さて、その最終回の内容は、夜の散歩で、空き地にたむろする猫に関心を持った、という話です。別に、猫の所作で印象に残ったとかいうわけではなく、ただ、何となく関心を持っただけです。猫の視点を想像して、「右から左に動く人間」としかとらえていないだろう、などとも書いています。
猫たちのいる空き地は、囲われており、長井氏と猫の間には厳然とした境界があります。その距離感を、「猫たちは月の上にいるみたいだ」と表現しています。
その自分と猫たちとの短時間の邂逅を、ごく平凡な日常としている一方で、英雄も自分も猫も存在している事については皆同じ、と題名である「万物斉同」という言葉を引いて語っています。このあたり、荘子を読んだ事がないので今ひとつわかりません。とはいえ、長井氏の価値観が伝わってくるように感じます。
その一方、この自分と猫たちの関係についても、客観的に認識しています。いつ関係が終わるか分からないし、その後に思い出す事もあるかもしれない、と言っています。自分の内面を含め、あらゆる事を客観視している感じです。
この2年間、長井建氏の文章を毎月読み続けました。もちろん、氏の十八番である「笑いを創出する技術」も存分に楽しめました。その一方で、今回のような、独自の価値観に基づいた、自分も他人も動物も風景もそれぞれ等距離に離したような視点による文章も非常に興味深く読めました。
早いもので、はじめて長井氏の作品を読んでから22年の年月が流れました。その間、ファンであり続けて良かった、と思うことは何十回もありました。しかし、その逆は一度もありません。
「漫画家復帰」の話がどのくらい具体化しているか分かりません。いろいろ大変とは思いますが、是非とも目標を達成して、その才能に見合った実績を漫画界に残していただきたいものです。