神聖モテモテ王国
- (ながいけん閣下)
- 2008/6/1
- 掲載・1990年代後半の週刊少年サンデーと2004年のヤングサンデー
1989年にファンロードを去ってから、「ながいけん」という名前は漫画界から消えていた。しかし、1995年の週刊少年サンデー漫画賞の佳作か何かに「ピータン高校野球部」という作品(内容未発表・試合前に相手高校野球部を闇討ちにする、といったあらすじが書かれていたと記憶している)で、その名を再び漫画界に復活させた。
そして、極道さんといっしょで小学館で初の作品を発表すると、数作の読み切りが掲載された。その中の一作である「モテモテ親子」を元に、週刊少年サンデー連載となったのが、この「神聖モテモテ王国」である。
ただし、連載第1回も雑誌の真ん中あたりに白黒で掲載と、「伝説の天才ギャグ漫画家、サンデーで復活」にしては、寂しい扱いだった。読み切りが意外にも好評だったから、とりあえず連載させてみるか、程度の扱いだったと思われる。
一応、話の設定は、「アパートの一室に住む、人間離れした容姿を持つ『ファーザー』と、平凡な学生『オンナスキー(本名・深田一郎)』が、ナオン(女)にモテるための計画をトンカツを食べながら立てるものの、いざ実行すれば毎回失敗する話」となっている。
なお、オンナスキーの名前・外見は、スケベスト=オンナスキーシリーズの主人公とほぼ同じである。しかしながら、その異常性は全てファーザーのほうに与えられ、彼自身はファーザーに振り回される平凡な少年、という位置づけになっている。
おそらくは、異様なキャラと平凡な少年が、ナンパを失敗するといったギャグ漫画を編集部は考えていたのだろう。しかしながら、ギャグの天才である作者が、そのような平凡な話を描くわけがない。
ファーザーの立てる企画は、「モテる」などといった事から何億光年も離れた物になった。たとえば、モテるために将棋指しになると言い出すのだ。これだけでも十分おかしいのだが、その立案を元にやるのは「和服を着て扇子を持ちながら夜の道を歩き、通りかかった女性に対局(?)を申し込むが、ファーザーが妄想の世界に入ってしまい、その間に女性は去っていく」なのである。最初から最後まで間違いだらけで、どこをどう突っ込んでいいか分からないほとの目茶苦茶さだ。
結局、「モテるための作戦」などは、作者のギャグを表現するための、おまけみたいなものとなっていった。
基本的な話の流れは、作者が自ら4巻142頁に書いているように、「ファーザーがナンパや建国をしようとするが失敗する。最後は女性に振られるか、警察につかまるか、ヤクザに殺されるか、オンナスキーに止められるか、大王(敵キャラの一人)のワナに捕まる」という極めて単純なものだ。
そのような、あってないようなストーリーのあらゆる所で、作者のギャグが披露されるのである。漫画のみならず、「設定紹介」まで、様々なパロディが込められた、笑いを呼ぶ文章となっていた。
ちょっとした所にも、印象に残るギャグが埋め込まれている事が多かった。「腹にためらい傷がある」とか、「ちょうど浜名湖から手がのびたところ」など、本編と関係のない一言の中にも、心に残っているものが多い。
また、ライバル(?)として登場した、ヲタクな容姿ながら、なぜか女性にモテまくるり、ファーザーに『ブタッキー』と呼ばれて敵視されている少年・中森学が印象に残っている。彼自身は、モテる事を疎ましく思っており、むしろ主人公二人のような生活に憧れている、という設定もあり、そのあたりも面白かった。
かつてのファンロードと違い、週刊少年サンデーはヲタク向け雑誌ではない。しかしながら、作中にはマニアックなネタがふんだんに盛り込まれた。よく使われたのは「機動戦士ガンダム」と「あしたのジョー」だった。特に「あしたのジョー」は主な読者層である当時の中高生が産まれる前の作品であり、編集からも禁止令が出たような事が作中に書かれている。にも関わらず、そのようなマニアックなネタを使い続けた。
ちなみに、「ガンダム」だが、しばらく前に、「日常で『ガンダム用語』が使われる」という流行があった。そう考えると、この作品は、ブームを10年ほど先取りしていた、と言えるかもしれない。
筆者などは、この作品の影響を受けたため、以降、ガンダムの再放送を見たとき、この作品でパロられた、「謀ったな、シャア!」や「やらせはせん、やらせはせん」などを聞くと、自然に笑うようになってしまった。
このようなギャグは広く一般受けこそしないものの、一部ではかなり評価された。単行本1巻では高橋留美子先生が「センス抜群のネームと、確かなストーリー展開が(中略)心が癒されます。本当です。」と、同じ超一流プロならではの視点で、本作を評価していた。
また、根強いファンが多く、数年前にある漫画がアニメ化記念に行なった人気投票に、なぜかファーザーがエントリーされ、11位になる、という事もあった。
そして、この2008年に、サンデーとマガジンが合同で行なった創刊50周年カードゲームにも「サンデーを代表する作品」として採用された。そして、6巻発行後絶版となっていた単行本も、コミックパークという所で未収録分も含めて復刊された。
このように、終了後10年近くたって、ある程度正当な評価を得た作品ではある。しかしながら、連載途中は、目立った扱いを受けることはなかった。そしてたびごとに休載となり、最後は休載したまま自然消滅してしまった。その後、2004年にヤングサンデーで5話連載として復活したが、それ以降は描かれていない。
以前にも書いたが、「週刊連載で、毎回主題を与えられてのギャグ漫画」というのは、作者の能力を最大限に発揮する方法だったのか、と今でも疑問に思っている。たとえば、ダルビッシュ投手でも、毎試合先発していたら、本来の能力は発揮できないし、故障もしてしまうだろう。
もし、作者が最大限に力を発揮できるような、掲載間隔・ページ数・自由度があれば、この作品はさらに面白くなっていたに違いない。さらに、作者の漫画家人生も、その才能に見合ったものとなっていたのではないか、と思っている。
そういう事もあり、自分にとっては、面白さと同時に、勿体なさを感じる作品でもある。