魁!男塾

掲載・1980年代後半から1990年代初頭の週刊少年ジャンプ

2008/1/9

 元々は、アナクロな学園に所属する学ラン男達が学園の内外でドタバタを繰り広げるギャグ漫画だった。ところが、それまでと同じノリでギャグの学園祭を行っていたと思ったら、いきなり関東豪学連なる番長連合(?)が殴り込みを行った。さらにそこから強引に「謎の闘場で、あやしげな中国拳法を用いる男達が団体対抗で闘いを繰り広げる漫画」になってしまった。
 それだけ見ると、「キン肉マン」と「北斗の拳」をくっつけた感じの、人気作品の亜流のようだ。余談だが、ちょうどギャグから格闘ものに転換する頃、作者が出てきて「『北斗の拳』がなんぼのもんじゃ!『キャプテン翼』がなんぼのもんじゃ!」と叫ぶ、などという自虐ギャグが掲載されたこともあった。

 他作品と類似点が多い上に、主人公達のいでたちは、宮下氏の過去の人気作と同じである。したがって、本筋についてはあまり独創性があるとは言えない作品と言えるかもしれない。ところが、作中において、極めて独創的な表現があった。それゆえに、本作は極めて画期的な作品になった。その表現とは、「荒唐無稽な技の説明をする際、文献をデッチあげて、その技に箔をつける」というものだ。
 作中には複数の「架空の出版社」が存在したが、特に多用されたのは、「民明書房」という「出版社」だった。不思議なもので、どんな荒唐無稽な話でも、最後に「民明書房刊・戦国武将考察より」などと書かれると、ついつい本当の事だと信じてしまうのだ。実際、当時高校生だった筆者も、「大正○年に神宮球場で行われた大学野球で、W大応援団の声は池袋まで聞こえた」などの、「民明書房の文献からの引用」を、最初の一年くらいは本気で信じていた。
 闘いモードになってからは、敵味方問わず、多種多様の武術や拳法を披露していた。それを裏付ける(?)「文献」と相まって、人気は上がっていった。なかには、出てくる度に、異なる流派の技を使うようなキャラまでいた。
 関東豪学連を倒した後は、前シリーズで闘った豪学連を仲間に加えて、同じ男塾の先輩との対決となった。さらにそれに勝利すると、今度はその先輩達も加えて、団体格闘大会に出る、という「倍々ゲーム」みたいな展開となっていき、初期の味方キャラが闘う機会が段々と減っていく、という現象が見られた。
 また、この団体格闘大会においては、敵の使う技のみならず、敵団体にも奇妙な集団が多数登場した。その中でも、極めつけは、「こんなので暗殺などできるわけがない技を使う連中を集めた『暗殺集団』・宝竜黒蓮珠」だろう。その印象度は相当なもので、ジャンプ掲載直後にこの団体をネタにした「魁!宝竜黒蓮珠」というパロディが掲載された。客観的に見れば渾身の設定をボロクソに言われたようなものだ。しかしながら、作者の宮下氏はそれに腹を立てたりはしなかった。それどころか、ジャンプの作者談話に掲載誌を記載の上「笑った。まったくよく読んでるヤツがいるもんだぜ」と賞賛したのであった。直接、パロディ作品に言及していたわけではないが、この反応を見たときは、路線は変われど、作者的には相変らずギャグのノリで描いているのだな、と思ったものだった。
 さすがに展開がマンネリ化した事もあり、その後数年で連載は終了した。しかしながら、「天より高く」という別作品でも男塾キャラのその後が登場し、現在でも二世モノの「暁!男塾」および、人気キャラであった「塾長」を主役にした「天下無双 江田島平八伝」という作品が現在も連載されている。既に、この「男塾ワールド」は、宮下氏の漫画家生活そのもの、と言っても過言ではないだろう。
 この後も、ライフワークとして、この世界並びに「存在しない本からの引用」を描き続けてほしいものだ。