近鉄養老線(2002/12/24)

 三重県の桑名市から岐阜県の大垣市を通って揖斐という所まで行く近鉄養老線という路線がある。全線を通して走る電車はなく、桑名−大垣間と大垣−揖斐間は実際には異なる線区である。
 この路線、近鉄が所有しているが、近鉄との接続は桑名のみである。また、近鉄線への直通運転は一切行われていない、というかできない。近鉄の路線の多くは新幹線などと同じ「標準軌」という線路を使っているが、養老線はJR在来線と同じ「狭軌」という線路を使っているからだ。しかも、そのJRとは桑名と大垣で接続する。したがって、どちらかと言うと近鉄よりJRに所属していたほうが普通なのだ。

 先日、四日市に行く機会があり、帰りがけに名古屋に出ようと近鉄電車に乗っていたらなんとなくこの養老線に乗りたくなったので、時刻も調べずに桑名駅で下車した。
 養老線乗り場に行くと、ワンマンと表示された電車が止まっていた。しかし、行き先は「美濃松山」となっている。時刻表を見ると、日中は30分に1本で、うち半分は美濃松山行き。大垣まで通しで運転するのは1時間に1本しかない。
 ところで、時刻表と路線図を見比べると、不思議なことに気づいた。先ほど書いたように、日中は大垣行きと美濃松山行きが交互に来る。それと別に朝と夜には「石津行き」「駒野行き」「養老行き」があった。ところが、この石津駅は美濃松山の一つ向こうの駅だし、駒野駅も石津駅より二つ先の駅である。何か理由があるのだろうが、やけに細かく区間運転を設定してあるのだ。
 それはともかく、「ワンマン・大垣行き」に乗った。平日の昼間だったが、3両編成の電車にはそこそこ客が乗っていた。仮にレールバス1台だったら立ち客が出るか、というくらいだった。
 桑名の市街をすぐ抜けると、沿線はみかんなどの果樹がちょっと目立つくらいの普通の田園地帯という感じになった。比較的単調な感じで、実際、大垣の市街地に入るまで、似たような風景が続いた。
 ところで、最初に書いたように、電車には「ワンマン」という表示がされており、車内には機械式の運賃箱が設置され、ドアが開くとお金を入れるところが回る。しかし、奇妙な事に車内には車掌さんがおり、車内で出札をしている。しかし、ドア閉めなどの運転業務は運転手が行っているのだ。しかも、この車掌さんは顔見知りのお客と雑談したりしている。普段も車内で出札をしているという感じだ。結局、終点まで車掌さんは乗っていた。どのへんが「ワンマン」なのかいま一つわからない。
 などと言っているうちに、美濃松山についた。折り返し電車の終着駅なだけあり、降りる人が多かった。岐阜県の駅なのだが、実際の生活では三重県の桑名との結びつきが強いのだろう。
 ところで、養老線は単線で、美濃松山までは30分間隔、美濃松山−大垣間は日中は1時間間隔、朝夕も20分〜30分間隔という本数しかない。しかも現在は貨物輸送も行っていない。したがって、一部の交換駅を除けば、駅は1面1線で事足りるはずだ。しかしながら、途中駅はホームが2番線まである駅が少なくなく、中には3番線まである駅まである。JRのローカル線だと、こういう場合、2番線・3番線の線路を撤去したり、使わないホームに草むしていたりして、現役の駅ながら廃墟の趣きがあったりするのだが、養老線は3番線もレールが残っているし、使っていなさそうなホームも比較的きれいだった。

 そうこうしているうちに、電車は線名にもなっている養老駅に着いた。あの「孝行息子が父のために滝の水を汲んだら、水が酒になった」という伝説の滝のあるところだ。その伝説にちなんでか、駅のホームには多くのヒョウタンが飾られていた。一瞬降りて滝でも見に行こうかとも思ったが、何となく気乗りがしないのでやめておいた。もっとも、電車から滝が見えるわけではない。駅のヒョウタンを除けば、これまでと同じのどかな沿線風景が見えるだけだった。
 その後も、川を渡るときに線路が高架になった以外は、似たようなのどかな風景が続いた。その単調さのせいか、つい眠ってしまった。目が覚めたら電車は大垣市街に入ったようで、車内には立ち客が何人かいるほどの混雑となっていた。
 そして、西大垣という駅を出てしばらくすると、左から線路が合流してきた。そういえば昔読んだ本で養老線の大垣駅はスイッチバックみたいな形になっていると書いてあったな、などという事を思い出した。そのまましばらくして、電車は大垣駅に入った。
 改札で清算しようと思ったら、改札の前に何か自販機みたいな機械があった。「さすがJRを除けば最大の私鉄の近鉄、こんなローカル線にも自動精算機があるのか」と半分寝ている頭でそう思い、切符を入れた。精算機ならこれで投入金が表示されるはずだが、何も起きない。よく見ると、筆者が切符を入れたところは「カード投入口」と書かれている。右に硬貨の投入口があり、下のほうには駅名の書かれたボタンがある。どうやら、この機械は途中の無人駅から乗った人のための券売機だったようだ。取り消しボタンを押しても切符は戻らない。駅員さんを呼んで直してもらったが、後ろには行列ができており、大恥をかいた。まあ「旅先の恥はかき捨ての典型例だな」などと思いながら、駅員さんに差額を払って改札を出た。


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