幕張駅入口
副題・一日一本のバス停 その2
2012/2/27
1.幕張駅入口バス停の小史と現状
かつて、幕張駅には二つのバスターミナルがあった。一つは駅北口を出て2分ほど歩いた所に位置する「幕張駅」で、もう一つは、駅南口を出て6分ほど歩いた所に位置する「幕張駅入口」だった。
位置の通り、「幕張駅」は駅から北の京成本線方面に向かうバスが発着していた。一方、「幕張駅入口」のほうは、もともとは、現在の検見川浜・稲毛海岸にある団地と総武線を結ぶために作られたターミナルだった。しかしその後、京葉線開通などの影響で、海浜幕張駅および、その中間地点にある県立幕張総合高校に行くバスのターミナルとなった。
総武線の中でも歴史のある幕張駅と、巨大なビジネス街かつ、幕張メッセがある海浜幕張築を結ぶ路線である。もし、ちょっと条件が揃っていれば、日本でも有数のバス路線になっていたかもしれない。
しかしながら、その「幕張駅入口」の立地条件が悪すぎた。幕張駅南口には、駅前広場が存在しない。駅を出たらすぐに商店街となっている。その商店街を構成する道は一車線だ。
かつては、その商店街を抜けて幕張駅南口までバスが走っていたが、道路事情が厳しくなり、1960年代には幕張駅南口にあったバス停は廃止された。
そのため、南口のバスターミナルは、駅から歩いて6分ほどかかる場所に作られた。そのような立地では、総武線と海浜幕張地区を結ぶバスターミナルとしては不適切だ。
一方、一つ隣にある幕張本郷駅はかつては畑しかない所だった。そういう事もあり、駅出口に隣接した場所にバスターミナルを作ることができた。そのため、距離は幕張駅より遠いにも関わらず、総武線と海浜幕張を結ぶ幹線バスは幕張本郷を起点とすることになった。
その結果、幕張本郷と海浜幕張を結ぶ路線は連節バスなどが一日200本以上走る、日本でもトップクラスの大幹線となった。一方、幕張駅入口と海浜幕張を結ぶバスは、一日20本を切る閑散路線となった。
そのような状況でも、この「幕張駅入口」がバスターミナルとして存続できた理由として、幕張駅近くにある開かずの踏切の存在があった。これのお陰で、幕張駅北口にあるバスターミナルから、海浜幕張へのバス路線を設定できなかった。
そのため、1時間に2本程度ではあるが、この幕張駅入口から海浜幕張方面にバスが発着していた(※1999年時点での時刻表−サイト「千葉県内路線バス時刻表」に掲載)。
ところが、2004年夏にその開かずの踏切が廃止され、地下道が開通した。その結果、北口のバスターミナルから海浜幕張に行くバスが運行開始となった。その路線は、幕張駅入口−海浜幕張駅を結ぶ路線と300mしか離れていない道路に設定された。
その結果、幕張駅入口のバスターミナルとしての価値は完全に消滅した。かつて存在した発着所は閉鎖されてマンションが建った。そしてバス停は路上に移動した。
そして、幕張駅入口と海浜幕張駅を結ぶバスは、平日のみの一日1.5往復となってしまった。他に、幕張総合高校との間に一日1往復が設定されている。
つまり、幕張駅入口バス停は、発車が一日2本、到着が1日3本、土日祝は全くバスが来ない、という状況になり、現在に至っているのである。
率直に言って、なぜこれが廃止にならないのか不思議だ。しかも、この超閑散路線を、二つのバス会社が競合運行しているのだ。千葉海浜交通が幕張駅入口−海浜幕張駅および、幕張総合高校を結ぶ2往復を、千葉シーサイドバスが海浜幕張駅から幕張駅入口に行く片道バスを運行している。その片道1本のために、千葉シーサイドバスは、専用のバス停ポールまで設置している。
何か廃止できない理由でもあるのだろうか、それとも、廃止するよりもこのような形で運行させたほうが安くあがるのだろうか。
※往時の幕張駅入口バスターミナルについては、サイト1688さんの記事を参考にさせて頂きました。
2.夕暮れの海浜幕張行き
そのバス路線に乗ってみることにした。千葉海浜交通のサイトに掲載されている幕張駅入口の発車時刻表を見ると、朝8時9分に幕張総合高校行きの始発兼終バスが、夕方16時32分に海浜幕張駅行きの始発兼終バスが出る、となっている。一方、海浜幕張からは、7時59分に幕張駅入口行きが出る、となっている。
幕張総合高校の発車時刻表は掲載されていないが、これから推測すれば、朝、海浜幕張駅を出たバスが幕張駅入口で幕張総合高校行きとなり、到着後車庫もしくは海浜幕張駅まで回送される。そして夕方、高校まで回送されたバスが幕張駅入口に行き、それが海浜幕張駅行きになる、といるダイヤなのだろう。
その始発兼終バスに乗りに、夕方、幕張駅から「入口」に向かって歩く。冒頭に書いたように、駅前は狭い商店街となっている。これが拡幅できれば、駅前までバスを通すことができたのだろう。そして、場合によっては、その駅前から連節バスが発着していた可能性もあったのだろうな、などと思った。
歩いている間ずっと、下校中の高校生とすれ違った。おそらくは、幕張総合高校から帰る生徒なのだろう。
そして、16時20分頃に、幕張駅入口バス停に着いた。駅の改札からだと6分ほどだった。ただし、間に京成電鉄の踏切があるので、それに引っかかればもっと時間がかかるだろう。
そのバス停ポールを見て、まず驚いた。なんと、時刻表にあたる部分に貼られていたと紙が剥がれているのだ。これでは、バスがいつ来るかが分からない。乗る場合は、事前にネットで時刻表を調べておけ、という事なのだろうか。
子供の頃から、色々なバスに乗ってきたが、このようなバス停を見たのは初めてだった。同時に、バス会社のやる気のなさを感じさせられた。
なお、向かい側には降車専用バス停がある。先述したように競合運行なので、千葉シーサイドバスの専用ポールもあった(下写真の一番右参照)。降車専用バス停であるにも関わらず、「のりば」と印刷されているのには苦笑させられた。
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しばらく待っていると、幕張総合高校から来たと思われる、幕張駅入口行きバスがやってきた。しかし、降車専用バス停に近づいても、スピードを落とさない。中を見たところ、乗客は一人もいなかった。ちなみに、幕張総合高校のサイトに掲載されている交通案内には、このバスについての記載はなかった。
そしてバスはそのまま、国道14号の旧道を左折した。一つ向こうの通りまで行って方向転換するためかと思われる。その様子を見に、バスをちょっと追いかける。
そして戻ってきたら、バス停には親子連れがいた。子供の格好から推測するに、海浜幕張駅前にある進学塾に通っているようだ。一日一本のバスを器用に使うものだと驚かされた。
方向転換時に渋滞に引っ掛かったためか、バスは定時より遅れて幕張駅入口にやってきた。子供たちがICカードで乗車したので、筆者も真似をして乗車し、160円が引かれた。
ところが、席に着いてから料金表を見ると、「現金の場合は100円」となっていた。海浜幕張駅周辺に設定されている割引だが、面倒だから全線に設定しているのだろう。
幕張駅入口を出るとすぐに、国道14号線の新道を渡る。右を見ると、海浜幕張駅と幕張駅北口を結ぶバスが走る通りが見えた。先述したように、距離は300mくらいしか離れていない。
そしてしばらく走ると、放送大学バス停が見えた。乗る人も降りる人もおらず、バスはほとんど速度を落とさず通過する。そして、交差点を左折し、幕張高校入口を通過する。ここからは、千葉海浜交通の他路線との共用区間となる。
そして、イオン幕張店入口を通過して左折し、海浜幕張駅前に着いた。子供たちは、運転手さんにお礼を言って、降りていった。
3.朝の幕張駅入口行きと「一日一本のバス停」
日を改めて、今度は海浜幕張駅から幕張駅入口行きに乗った。朝7時59分に千葉海浜交通が運行する「始発」が出て、8時35分には千葉シーサイドバスが運行する「終バス」が出る、というダイヤになっている。
その終バスに乗るべく、まずは自宅の最寄りである幕張本郷駅から海浜幕張駅まで京成バスで行った。
幕張本郷駅前は、新都心地区に通勤する人々で長い行列ができている。そして、立錐の余地がないほど客を詰め込んだ連節バスは海浜幕張に向かった。
この車両に乗っている人数だけで、確実に、幕張駅入口行きが一ヶ月に運ぶ人数より多いだろうな、と思った。下手すれば一年分より多いかもしれない。
海浜幕張駅前に着き、一つ道を隔てた所にある千葉海浜交通・千葉シーサイドバス共通のバス停で待つと、幕張駅入口行きが来た。
早速中に入り、運賃表示を見たところ、160円均一だった。同一区間ながら現金払いの場合、千葉海浜交通より60円高いわけだ。競合路線でここまで運賃差があるのは、ここくらいだろう。
乗った時点では他に乗客はいなかった。ところが、発車数分前に、海浜幕張駅から、初老の紳士が小走りにやってきて乗車した。そして、運転手さんから回数券を購入していた。
回数券発行が終わると、バスは発車した。最初のバス停は「カルフール前」である。確かに、かつてここには「カルフール」というフランス資本の巨大スーパーが存在していた。しかし、現在は撤退し、2010年には「イオン幕張店」という名称に変更されている。
それに伴い、千葉海浜交通はバス停名を変更した。一方、名称変更してから2年も経つのに、千葉シーサイドバスはそのまま旧名を使用している。
千葉海浜交通は他の路線もこのバス停を通るのに対し、千葉シーサイドバスはこの路線しかこのバス停を使わない。つまり、一日一本しか発着のないバス停に対して、改名に伴う経費などかけたくない、という事なのだろう。
まあ、イオン幕張店の営業開始は朝9時だが、このバス停に千葉シーサイドバスの「終バス」が来るのは8時36分である。だから特に実害はないのだろう。そして、当然ながら、バスは速度を落とさずに通過した。
なお、他のバス停は、千葉海浜交通と千葉シーサイドバスのバス停がそれぞれ立っているのだが、ここだけは千葉シーサイドバスの「カルフール前」がなかった。イオンからクレームがきて撤去したのだろうか、と思った。
次の幕張高校入口をこれまた速度を落とさず通過する。しかし、続いて「次は放送大学です」という案内が流れると、先程回数券を買った紳士がボタンを押して下車した。放送大学の関係者で、通勤にこのバスを使っているのだろうか。
次のバス停は「ファミールハイツ」である。このバス停は千葉シーサイドバスにのみ存在し、千葉海浜交通のバスは通過する。つまり、正真正銘の一日一本しか発着しないバス停なのだ。
なぜこのような不可解なバス停が存在するかというと、これもかつて存在した「開かずの踏切」に端を発している。その存在により、総武線の北側と海浜幕張を最短経路で結ぶ路線を当時の東洋バス(2003年に現在の千葉シーサイドバスが分社)は設定出来なかった。その代替策として高速道路を使って総武線を渡る路線を開通させた。
その路線における幕張駅の最寄りバス停として、「幕張駅入口」から道を隔てた200mも離れていない地点に、この「ファミールハイツ」が開業した。いわば「幕張駅入口の入口」というべきバス停である。それを、同じ会社の路線である、千葉シーサイドバスの幕張駅入口行きも停車するようになった。
その後の地下道開通により、高速道路経由のバスは2004年に廃止となった。しかし、幕張駅入口行きはその後もこの「ファミールハイツ」を存続させ、現在に至っているわけである。これも「カルフール前」同様、廃止する手続きが面倒だから、という理由なのだろう。
高校生の頃、葛西にあった一日一本しか発着のないバス停にわざわざ乗りに行き、バス停を見て感動した事があった。それと同じものがいつの間にか、自宅から歩いて行ける所に存在していたわけである。
なお、バス停周辺は住宅街だが、こんな朝に、海浜幕張方面から帰宅する住人はいないだろう。また、次のバス停である終点・幕張駅入口までは歩いて2分もかからない。したがって、このバス停を利用するは、筆者のような「珍しいバス停マニア」くらいしか存在しないだろう。
そういう事もあり、「自分の前にこのバス停で降りた人がいたのは何年前のことだろうか」などと思いながら下車した。降りてみて、バス停を確認したところ、そこには、「かつてバス停だったモノ」と思われる鉄の棒が一本立っていただけだった。
(※画像をクリックすると、同じ窓で画像が開きます・「戻る」ボタンなどで本文に戻って下さい)
棒の上の部分をよく見ると、バス停名を表示する部分を撤去した跡がある。もちろん、時刻表も撤去されている。こんな所にバス停と分かるものを残しておいて、間違えてバス待ちした客からクレームでも来たら困る、とでも考えたのだろうか。
先日、幕張駅入口において「時刻表のないバス停」を見た時は、「こんなやる気のないバス停を見たのは生まれて始めただ」と驚いたものだった。しかし、そこから200メートルも離れていない所に、それを上回るやる気のなさを誇るバス停が存在していたわけである。
改めて、千葉シーサイドバスがこのバス停を存続させた理由が「廃止手続きが面倒だから」である事がよくわかった。
そのファミールハイツ前「バス停」から筆者を下ろしたバスを見ていると、国道14号線を渡った所ですぐに止まった。乗客は誰もいないが、ダイヤ通りに「幕張駅入口」に停車したわけだ。そして一分ほど止まったあと、行き先表示を「回送」に変更し、バスは走り去っていった。
追記・その後、千葉海浜交通の幕張駅入口−海浜幕張駅・幕張総合高校線は廃止された。
そのため、現在、この区間を走るのは、千葉シーサイドバスの海浜幕張駅→幕張駅入口の一日半往復(平日のみ)となっている。
なお、ファミールハイツ前バス停は、千葉シーサイドバスが委託運行しているイトーヨーカドーお買い物バスの停留所を兼ねるようになったため、ポールが復元され、「普通のバス停」に戻っている。