人生ゲーム「昭和おもひで劇場」

2004/1/12

1.随所に見えるこだわり

 前作・人生ゲームブラック&ビター発売の半年後の2003年12月、「人生ゲーム35周年記念企画」という事で、表題の「昭和おもひで劇場」が発売された。記念企画という事で、「1万個限定」とのこと。さらに、値段も、通常のものが3千6百円(税別)なのに対し、なんと1万円(税別)と倍以上の価格。家庭ゲームというより、マニア向けゲームという感じだ。
 それだけの価格差があるだけに、作りは凝っており、細かいところが豪華になっている。まず、紙製の箱を開ける。するとクッキーの入れ物みたいな感じの缶が出てくるのだ。ある意味、「過剰包装」と言えなくもないが、倍以上の金を払った(といっても払ったのは筆者ではないが)価値みたいなものを感じさせてくれる。
 そして、いよいよ中身だが、まず目にはいるのが、「おもひで情景フィギュア」だ。たとえば、東京タワーだと、先端部分や麓に停まっている「はとバス」を取り付けてやっと「セット」が完成する。他にも「月面に到達した人類(星条旗つき)」や「浅草花屋敷」などもある。
 部品は、かなり細かく、組み立てるのも保存するのも一苦労だ。さらにすごいのは、これらの「情景フィギュア」は、ゲームの進行にはまったくもって関係ないただの飾りだ、という事だろう。入れ物の件もそうだが、とにかくこういう「遊びをつきつめた贅沢」が随所に感じさせられる。
 また、人生ゲームにおける最重要部品の一つである「ルーレット」にも工夫がほどこされている。形は「古時計」を模して作られている。さらに、人生ゲーム伝統の問題点(?)である、「出た数字を示すプラスチックの棒が数字と数字の間に引っかかり、出た目がよくわからなくなる」を解消する仕組みまで作られているのだ。そのような状況になった時は、「古時計」の振り子にあたる部分を押すと、引っかかりが外れ、全参加者が満足できる形で数字が決まる。あと、最大の数字が「6」なのも特徴と言えるだろう。
 さらに、「コマ」である自動車も、従来のような色だけ違うものではない。最初は「自転車」でスタートし、途中の「自動車販売所」で往年の名車を購入する、というシステムになった。さらに、この自動車がそれぞれ値段が異なっており、どれを買うかが勝利に影響するようになっている。もちろん、「自動車のコマ」はそれらの名車の形状を再現している。筆者は自動車には疎いのでよくわからないが、それだけでも、ちょっとした自動車の玩具になるほどの出来だ。
 これまで無造作に自動車に「ピン」として挿していた「夫」「妻」「子」の表現も変わった。いずれも牛乳ビンの紙蓋のような円形の厚紙にそれぞれ異なる顔が書いてあり、そこから選ぶのだ。各キャラクターは、1960〜70年代に流行したような外見や髪型をしている。さらに凝っているのは、その「コマ」をひっくりかえすと、ビン牛乳の蓋のような意匠がほどこされているのだ。つまり、かつての「牛乳ビンの蓋の裏に絵を描いて遊んだ」を再現しているわけである。
 似たような「遊び」は、「職業カード」にもある。カードはやや厚みのある長方形で、ちょうど、「メンコ」のような形状をしている。そして、職業名とそれを表す絵の他に、「じゃんけんのマーク」が描いてあるのだ。あの「メンコ」についていたやつである。
 このように、この「昭和おもひで劇場」は、ゲームの進行と全く関係ないところにまで、多大な労力を投入して作られている。最初にも書いたが、まさしく「マニア向け」のゲームと言えるだろう。
 なお、「昭和」といっても、このゲームでは昭和恐慌・15年戦争・焼け跡からの復興、などはない。また、「昭和末期」のバブル経済もない。舞台は基本的には、人生ゲームがでた前後である1960年代から70年代だ。わかりやすくいえば、最近はやりの「昭和30年代テーマパーク」に近い雰囲気と言えるだろう。
 なお、これまでの人生ゲームだと、お金の単位は「ドル」だったが、「おもひで劇場」にお金の単位はなく、ただの数字だ。また、お札のデザインはすべて「月光仮面」になっている。せっかく凝ったつくりをしているのだから、お札も額面によって違うデザインを用意して欲しかった。やや画竜点睛を欠く感があり、惜しまれる。

 ちなみに、タカラ社はこのゲームの盤面も公開しており、全てのマスならびに、「付属品一覧」を見ることができる。興味のある方は公式ページを参照のこと(要Flash Player)。

2.独自のゲーム性

 さて、肝心のゲームそのものだが、基本的には普通の人生ゲームと同じだ。職を決め、給料をもらい、結婚して、子供ができ、その間にお金の出入りがあって、お宝を獲得し、ゴール前に「正月(通常の人生ゲームでいうところの「決算日」)」がある。そして資産の足りない人は「人生最大の賭け」をし、負けたら「空き地(いわゆる開拓地・ゴーストタウン)」行きになる。それ以外の人はごゴールの「ハワイ(通常の人生ゲームでいうところの「億万長者の土地」)へ向かう。
 ただ、通常の人生ゲームが全員がゴールインした時点で資産を計算し、その金額で勝負が決まるのに対し、「おもひで劇場」はそこから「第2部」が始まる。ゲームの中で獲得したお宝(自動車を含む)を売却する。その価格はルーレットによって決まる。お宝一つごとにルーレットをまわし、その目によっては購入価格の何倍で売却できたり、逆に1円にもならなかったりするのだ。
 たとえば、購入価格20万「トヨタ2000GT」だと、鑑定時に「1」が出ると3倍になる。すなわち、それだけで資産が40万増えるわけだ。場合によってはそれだけで逆転勝利になる可能性もある。  これは、「第1部」で、1960〜70年代を旅してお宝を取得し、それをゴールイン後の「第2部」で現代に戻って鑑定団に見てもらう、という感覚なのかもしれない。もちろん、「第1部」で築いた資産が基本となるので、それまで圧倒的最下位だった人が、「第2部」で一気に首位になる、というわけにはいかない。とはいえ、従来の人生ゲームとは微妙に感覚が異なるのはまた事実だろう。
 なお、お宝の種類は大きく分けると3種類になる。一つは「質草」で、これは基本的に「給料日」のマスに止まるか通るかした時に買える。もう一つは「自動車」「おもちゃ」「電器」「洋品」で、これらを販売しているマスは、全員必ず止まる事になっている。したがって、これらのお宝は基本的には早い者勝ちだ。最後は「掘り出し物」で、これは所定のマスに止まらないと入手できない。なかには、「価格二十万で、ルーレットによる変動なし」という強力なものもある。
 ただし、「正月(決算期)」で借金を返済しきれない場合は、これらのお宝を購入価格の半額で「質入れ」しなくてはならない。また、「隣の人とお宝を交換」「隣の人がお宝を一つ失う」「ゴジラに車を踏み潰される」などと言った凶悪なマスもある。したがって、高価なお宝を購入・獲得したからといって、必ず有利というわけでもないのだ。

3.1回戦−やはり基本は職業だ

 今回は3試合できたので、それぞれ簡単に紹介してみたい。出場者は以下の通り。なお、「おもひで劇場」の最大参加人数は4人と、通常の人生ゲームに比べて少ない。
  • &さん・・・「おもひで劇場」の購入者。早くて正確な暗算力を誇る。
  • Oさん・・・ゲーム会場を提供してくれた。小学1年の娘さんとタッグを組んで参戦。
  • Kさん・・・前回に続いて対戦。今回は「天敵」のYさんがいない分有利か。
  • 筆者
 「おもひで劇場」も、スタートで二つに分かれて、職業を決めるところは、従来と同じだ。コース選択は任意にでき、また、「サラリーマンコース」を選べば必ずサラリーマンにはなれる。このへんは「ブラック&ビター」よりも、厳しくない。まあ、1960〜70年代なのだから、当然言えば当然だ。
 サラリーマン以外の職業は「演歌歌手」「駄菓子屋」「若手俳優」「私立探偵」「プロボーラー」「アルバイト」の6種類。筆者は「プロボーラー」になった。これは「ルーレットの目×1万」で、同じく不定給の「演歌歌手」の倍、「アルバイト」の5倍となる。また、最大で給料は6万となるが、これは、初期に就職できる職業では最高だ。というわけで、幸先良い展開と言えるだろう。
 その後も、蓄財・お宝獲得とも順調に進む。途中2回ほど「隣の人とお宝総交換」を食らい、さらに車をゴジラに踏み潰された。しかし、それでもベースの資産が大きいため、借金をすることもなく、無難にゴールして一等賞賞金20万を獲得した。そして、「第2部」の「お宝鑑定」でも可もなく不可もない結果に終わり、2位のKさんに3万ほど差をつけて記念すべき(?)第1回優勝者となった。

4.2回戦−アツい逆転負け

 同じメンバーで2回戦を行った。今度の職業は「私立探偵」。固定給5万で、これは初期の固定給の中では最高額だ。相変わらず職業運がいい。
 今回は、前回、車がゴジラに踏み潰されたという「教訓」を生かし、車を買わずに進めることにした。なお、最後のほうの給料日に「車を買う事が出来る」というのがあるので、最初に買わなくても、必ず車を買う事はできるようになっている。
 やはりベースの給料が多い事もあり、今回も蓄財・お宝獲得とも快適に進めることができた。ところが、途中で異変が起きる。
 終盤の入口あたりに、「宇宙時代到来!突如宇宙飛行士に選ばれる」というマスがある。わざわざこのマス用に「月面に到達した人類(星条旗つき)」という「おもひで情景フィギュア」があるほどのマスだ。そして、「宇宙飛行士」になると、何と給料が10万になるのだ。ランクアップ後の職業も含め、最高給だ。このマスにKさんが止まり、転職に成功した。さらに不快なことに、筆者もその直後にそのマスに止まったのだ。もちろん、2人目以降の人は「宇宙飛行士」にはなれない。
 その後、運良く「20万確定」のお宝を入手できたが、それも、「隣の人のお宝を一つ奪う」マスに止まった&さんに奪われてしまった。その時点で&さんには優勝の目はかなり薄かっただけに、余計アツかった。
 結局、Kさんに差をつけられたまま、「第1部」が終了。「第2部」のルーレットの目次第では、逆転の可能性もあったが、それもかなわず十数万の大差をつけられ、Kさんに敗れた。逆に言えば、20万確定のお宝さえ奪われなかったら勝てたわけで、そういう意味でも「お宝」の重要性をつくづく感じさせられたゲームだった。

5.3回戦−脅威の大まくり

 2回戦の最中に、所用で遅れていた髭さんが到着した。この人は、人生ゲームブームの立役者の一人で、ブラックアンドビターにおいて、三回連続で$100,000の家を焼失したという経験の持ち主である。ゲームの腕もかなりのもので、過去のブラックアンドビターの例会ではかなりの確率で1位となっている。
 しかし、「おもひで劇場」をするのは初めてだ。そのため、過去2ゲームとはいえ、「経験値」のある他のメンバーのほうが有利かと思われたのだが・・・
 なお、ゲームの定員が4人のため、筆者が抜け、銀行をやりながら他の4人の戦いを見る事になった。

 さて、そのゲームは髭さんが飛ばしまくった。買える物は何でも可能な限り最高額のものを買う。車も当然20万のものだ。そのための借金はいとわない。なんと、中盤の終わるあたりで、借金総額が28万まで膨れ上がった。しかも、職業は最初から「アルバイト」だから圧倒的に不利だ。
 一方、他の3人はこれまで通り進めている。なお、母娘タッグのOさんは本日三度目の「ヒッピーにあこがれて職を捨てる」マスに止まって「失業」していた。一度ならとにかく、三回やって三回とはかなりのツキのなさだ。
 さて、注目の髭さんだが、「正月(決算日)」まで残り20マスを切ったところで、まだ借金が28万残っている。誰もがこれでは初の「空き地」行きか?と思いながら見ていた。
 ところが、髭さんは、ここから驚異的な引きを見せる。まず、「宇宙飛行士」マスに止まり、「アルバイト」から一気に大昇格し、給料10万を確定させる。さらに、20万確定の「お宝」を獲得した上に、「正月(決算期)」の一つ手前にある「画期的な健康器具を開発して18万」というマスにまで止まる引きの強さ。「正月(決算期)」に着いた時は借金完済のうえに、かなりの財産を築いていた。
 その後、「隣の人とお宝を総交換」を食らって20万の自動車やお宝を失いもしたが、それまでの蓄財が大きい上に、「正月(決算期)」の後も高額収入マスに止まり、圧倒的首位でゴールイン。「第2部」での成績は平凡だったが、余裕で首位を守り、初参加初勝利を達成した。
 この「借金をいくらしても、後で元が取れて財産が築ける」というのは、まさしく「昭和のおもひで」なのかもしれない。そういう意味では、髭さんは「勝つべくして勝った」とも言えるだろう。もっとも、これは後半の驚異的な引きによってなされて勝利であり、筆者は、解っていても真似はできないが。

 というわけで、初の「昭和おもひで劇場」はなかなか盛り上がった。また近いうちにやってみたいものである。