人生ゲームブラック&ビター


2003/11/3

1.人生ゲームブラック&ビター

 人生ゲームをやったのは、小学校に入った頃だった。最初は友人の家でやり、1年くらいたって親が買ってくれたので、家族でやった。とりあえずルーレットを回してコマを進めれば成立するゲームなので、そこそこ楽しめた。もっとも、細かいルールは把握していなかったので、かなり雑にやっている部分もあった。特に「決算日」の脇にある「貧乏牧場」(その後「ゴーストタウン」を経て「開拓地」に改名)の意味を理解するには、かなりの時間がかかった。
 それから10年以上、ご無沙汰していたが、ある日、職場でこのゲームが話題になった。職場の野球サークルで合宿をやり、その時、夜の暇つぶし用に持ってきた最新版「ブラック&ビター」が大流行したというのだ。合宿が終わってしばらくたってから、野球部員二人に聞いたところ、熱くその面白さを語ってくれた。
 特に面白かったのは、体験者の「3回連続、$100,000の家を買い、3回連続『家を火事で焼失』のマスに止まった、という悲劇(?)だった。  話を聞くだけで面白かった事もあり、職場の有志で「人生ゲーム研究会」を開く事になった。

 最初の例会の時は、まだまだ新ルールを把握する、という段階だった。とりあえず、かつてやっていた人生ゲームとは、基本構造は同じであるものの、かなり変わっている、という事だけは理解できた。
 なお、タカラ社はこのゲームの盤面を公開しており、全てのマスを見ることができる。興味のある方はこちらを参照のこと(要Flash Player)。

2.最初の数回の重要性

 何とかルールを把握して、2度目の例会に臨んだ。卓のメンバーはもみな初心者なので、ある程度勝負になりそうか。
 とりあえず順番を決め、次に「ビジネス」と「専門職」を決めるルーレットを振る。偶数が出れば「ビジネス」で、基本的にサラリーマンになる(一つだけ「エリートサラリーマン」というマスがあり、ここだと給料が高い)。奇数が出ると「専門職」で、スポーツ選手・料理人・アイドル・大工・ショップ店員・科学者のいずれかになる可能性がある。
 といっても、「ビジネス」でサラリーマンもしくはエリートになるには、スタートから数えて3マス目から6マス目の間に止まらなくてはならない。そこに止まれなかった場合(たとえば最初のルーレットで7以上を出す)、フリーターとなってしまう。「専門職」は、ここまでシビアではない。とはいえ、3マス目から8マス目の間に止まらなかったら、やはりフリーターだ。
 20数年前にやったときは、序盤でどのような形になっても、最悪、定職にはつけた。しかし、「ブラック&ビター」では定職に就ける確率はだいたい半分くらい。大卒の半数が正社員になれないという、今の世相を繁栄している。
 ここでの職は、後々まで足をひっぱる。たとえば、大工になれば、給料日ごとに$16,000が確実にもらえるのに対し、フリーターだと給料日のたびにルーレットを回して、「目の数×$1,000」しかもらえない。つまり、1が出てしまうと、大工との格差は$15,000となってしまうのだ。
 最初にフリーターになっても、特定のマスに止まって「ポイント」を貯める事により、「就職」する事は可能だ。とはいえ、最初に就職できた人も同様のシステムでスキルアップして給料を上げる事ができるため、差はなかなかうまらない。そして、「決算日」での退職金も当然大差だ。
 つまり、この最初の2から3回くらいのルーレットの目で「生涯収入」は大きく変わる。勝敗の7割くらいはこのへんで決まると言っても過言でない。

3.序盤戦−資産とスキルの形成

 なお、本卓は5人で行われた。各参加者と決まった「職業」を紹介する。
  • Aさん・・・オンでは真面目だが、オフでは受けを狙う言動が多い。実生活では1児の父。今回の職業はアイドル。
  • Kさん・・・寡黙な九州男児だが、20万のノートパソコンを衝動買いして、そのまま開けずに1年以上そのまま、などという奇行をする一面もある。実生活では独身。今回の職業はサラリーマンだったが・・・。
  • Nくん・・・物腰のやわらかい好青年。仕事にもギャンブルにも真面目に取り組む。実生活では2児の父。今回の職業はフリーター。
  • Yさん・・・本卓の紅一点。基本的にはお嬢様タイプだが、なかなか愉快なキャラ。特に外見に似合わない鋭い突っ込みには定評がある。今回の職業はサラリーマン。
  • 筆者・・・今回の職業は大工。
 こうして、ゲームは始まった。大工の基本給は$16,000、サラリーマンは$10,000、アイドルは「ルーレットの目×$2,000」、フリーターは「ルーレットの目×$1,000」だから、この時点で筆者がかなり優位に立った事になる。
 序盤戦はまだまだお金の出入りはさほど激しくない。普通は収入も支出も$10,000未満だ。したがって、金よりもむしろ就職・転職のためのポイント集めのほうが重要になってくる。とくにフリーターになってしまった人は切実だ。したがって「$7,000もらって1ポイント獲得」のマスより「$6,000払って2ポイント獲得」のマスのほうが価値が高いとも言える。
 そして、全員停止の結婚マスが来る。しかし、ここで必ずしも結婚をする必要はない。もう一回結婚する機会もあるし、生涯独身を通しても構わない。どう違うかというと、結婚しないと子供が生まれないので、子供がらみのイベントがあるかないかくらいである。今回、筆者は最初の結婚は見送る事にした。一応、実生活での「28歳で結婚」を反映させようと思っただけで、戦略的な意味はない。

 また、この最初の結婚マスで道が分かれる。「スキルアップコース」と「お買い物コース」があり、転職などのためのポイントが足りない人は「スキルアップコース」、余裕のある人は「お買い物コース」へ進むのが普通だ。「お買い物コース」には「お宝カード購入」マスが6つほどあり、ここに止まると、あとで購入価格の5割増しくらいで売れる「貴重な品物」を買うことができる。ただ、中には価値がマイナスなものもある。特にひどいのは「果物の王様ドリアン」で、$30,000で購入するのに、売却するときもお金を払わねばいけないのだ。
 なお、「お買い物コース」でポイントを獲得する事もできるし、「スキルアップコース」にもお宝カードを得られるマスもある。ちなみに筆者は、転職までのポイントがあと1つだったので、「お買い物コース」を選んだ。しかし、めぼしいお宝を得る事ができなかった。
 また、このコースの間で、家を買うことができる。価格は$100,000から$20,000のマンションまであり、マンション以外は先着順だ。ゴール時に購入価格の0.5〜2倍で売却できるほか、「家の前に新幹線が通り、3倍で売れる」というマスもある。ここに止まれば、$100,000の家を持っている人は$200,000儲ける事ができるわけだ。一方、冒頭に書いたように、「火事で家が焼失」などというマスもある。もちろん、ここに止まれば投資分はすべてパーになる。今回、筆者は家は買わなかった。今回においては、これが後で大きな効果を挙げる事になった。

4.中盤戦−転職と平成大不況

 二つのコースが再び一緒になってしばらくすると、全員停止のマスがあり、ここで獲得したポイントによっては転職・就職ができる。ただ、そのマスの二つ前に「上司とソリがあわず退職。フリーターになる」というとんでもないマスがある。ここに止まったらここまでの生活設計・キャリアプランは水泡と化してしまうのである。
 今回、見事Kさんがここに止まり、サラリーマン生活に終止符を打った。早速Yさんの、「やはりKさんはサラリーマンのような固い仕事は向いていないんですよ」という突っ込みが入った。幸い、Kさんはスキルポイントが溜まっていたので、ショップ店員になる事ができた。とはいえ、そのままサラリーマンから昇進する事を考えれば、かなりの損失と言える。
 他の皆は無事スキルアップに成功。Aさんはアイドルからハリウッドスターになった。これまでの収入が「ルーレットの目×$2,000」だったのに対し、「ルーレットの目×$10,000」となった。また、Yさんはサラリーマンから部長になり、$10,000から$30,000と、収入3倍増。フリーターだったNくんは、ポイントがあったので、サラリーマンに「就職」できた。つまりYさんのスタート時に追いついたわけである。そして筆者もポイントを持っていたので「大工」から「建築家」に。これまでの収入$16,000から4倍増の$64,000である。「給料日」マスを通るだけでこれだけの金が入るのだから大きい。
 なお、このマスは結婚も可能になっており、筆者はここで結婚した。また、ここで転職できなくても、もうしばらくすると、二度目のスキルアップマスがあり、そこに行くまでにポイントを貯めれば転職できる。

 この二度目のスキルアップマスを過ぎると、本ゲームの副題「ブラック&ビター」の象徴とも言える「平成大不況」になる。なんと、15マスのうち14マスが多額の支出を強いられるマスなのである。一番安いマスでも「家を持っていなければ$25,000払う」なのだ(不定額のマスとして「証券類を全て失う」「給料の半額を支払う」「ルーレットで出た目の×$10,000払う」などもあるが)。一番高いマスは「$95,000払う」だ。他にも悪質なものとして、「自分のみならず右隣の人も$30,000払う」などというマスもある。
 その15マスの中で唯一「宝くじで$100,000もらう」というマスがある。このマスに止まった人の喜びようはかなりのものになる。
 ちなみに筆者はここで「火事で家が焼失」マスに止まった。当然、家はないので損害はない。ただでさえ基本給が高いのに、このような好運(?)まで引き寄せたのだ、この時点で、本ゲームでの勝利は半ば確定したと言えるだろう。

5.終盤戦−最後まで気は抜けない

 この「平成大不況」を抜けると終わりが見えてくる。ゴールに着いた順に賞金が入る上に、一番最初に着いた人には「ラッキーナンバー」という制度があり、ゴール到着後に数字を決め、その数字を他の人が出すと銀行から$20,000が入る、という特典がある。したがって、このあたりでは、「大きい数字を出して一番乗り」が皆の目標となる。
 そして、「退職(決算日)」という全員停止のマスが来る。ここでは、「人生の総決算」が行われる。退職金が入るのはもちろんの事、「お宝カード」も売却する。さらに借金をしていればペナルティもある。あと、興味深いのは子供の扱い。20数年前のゲームでは、「子供一人につ一定額を受け取る」だったのが、逆に「子供一人につき一定額を支払う」になっているのだ。最初のやつだと人身売買みたいなので変えたのだろうか。
 また、これは創設以来のルールだが、この時点でトップの人を上回る財産は築けないと悟った人は「人生最大の賭け」を行う事ができる。一つの数字を決めてルーレットをまわし、その数字が出れば$500,000を得る事ができる。負ければ全財産没収の上「開拓地」行きだ。
 実は今回のゲームにおいて、Kさんは財産も少ない上に、ルーレットでも小さい目ばかり出ており、他のほとんどがゴールインしていた状態で、一人でルーレットを回しつづけ、やっとこの「退職(決算日)」マスにたどりついた。財産からすると、勝つには「人生最大の賭け」をやるよりない。しかしここで、Yさんから、「Kさん、一人だけゴールインしていないのですから、どんどんルーレット回してくださいよ」との突っ込みが再び入った。ゲームのルールを把握しきれていないKさんは、正直にルーレットをまわしてしまう。そしてその瞬間に、最後のチャンスは消え、最下位が確定したのであった。

 もっとも、この「退職(決算日)」からゴールである「億万長者の土地」の間のマスもかなり重要だ。「百円ショップで買い物をしすぎて$100,000払う」とか「月の土地を買って$120,000払う」などというマスがある一方で、「小説を書いて$100,000貰う」とか「飼い犬がTVに出て$70,000貰う」などというのがあるのだ。
 この日は2卓立っていたのだが、隣の卓では首位でゴールし、その時点で財産も首位だった人が左団扇状態だった。ところが、遅れて「退職(決算日)」を迎えた人が、この地域で高収入マスに連続して止まり、逆転勝利をおさめた。
 あと、余談だが、この中のマスに「選挙で出馬して$10,000払う」というのがある。そこに止まった「ハリウッドスター」のAさんは「カリフォルニアの知事だ」と喜んでいた。

 というわけで、勝敗だけでなく、色々な角度で楽しむ事が出来た。特に、Kさんの最下位を決めたさりげない一言は印象に残った。それにしても、この「ブラック&ビター」の各設定を昔のものと比較し、あらためて世相の変化を実感させられている。