ON対決?

 2000年プロ野球日本シリーズに関する雑感です。

 昨年、ホークスが首位に立ち、ジャイアンツが首位に肉薄しつつある頃から、「ON対決」という文字をよく見るようになった。その時は、毎度おなじみの「巨人の逆転優勝を盛り上げるためだろう」と思っただけだった。そしてドラゴンズのマジックが減るにつれ、その言葉も見られなくなった。
 しかし今年のジャイアンツは他球団のエースと主砲を一気に獲得するという、さらなるの金権補強を行い、その戦力差で優勝を早々と確定してしまった。一方、ホークスは主力の故障などで苦しんだものの、終盤に一気の追い上げで首位を奪還し、連覇を達成した。
 ホークスが優勝を決めた試合はTVで見ていた。胴上げシーンが終わったあと、スコアボードにカメラが写った。そこには「祝!V2」ではなく、「祝、ON対決」と書かれていた。見ていて正直ゲンナリした。

 確かに万年Bクラスの球団を連覇させたのだから、王監督は優秀な監督と言えるのかもしれない。しかしながら、長嶋監督は度重なるルール改定で「金のある球団がいい戦力を持てる」という状況があったため優勝できたにすぎない。戦力的には昨年も一昨年も常に「優勝候補筆頭」と呼ばれるものだったのだ。
 1960年のホエールズや1975年のカープ・1979年のスワローズなどのように監督がかわった年に前年の最下位球団が優勝すれば、確かにそれは「監督による優勝」と言えるのかもしれない。しかしながら、今年のジャイアンツにはそれはあてはまらない。
 したがって、昨年から延々と「ON対決」と書きたてられるのは、「希代の名監督二人による智謀の競い合い」が見られるからではない。ただ単に二人が現役時代にジャイアンツ九連覇の両輪として活躍したからだ。
 確かにその九連覇時代にジャイアンツを応援していた人たちにとっては、その両雄が監督として戦う日本シリーズは「夢の対決」だろう。しかしそういう人が野球ファンのどのくらいの割合を占めるのだろうか。
 長嶋選手が現役引退をしたのは1974年、筆者はまだ五歳であり、野球の存在すら知らなかった。その翌年初めて野球というものを知り、TVや球場で見たのだが、それでも普通の人よりは野球との出会いは早い方だろう。ちなみに嫁さんが野球を見出したのは1980年に入ってからだから、王選手の現役時代すら生で見てはいない。
 30代になった野球ファンですらそのようなそうなのだから、20代以下のファンにとってはONの活躍など「昔話」でしかないだろう。また、年配のファンでもホークスファンや福岡のファンにとっては監督の現役時代の同僚などそんな重要な事ではないだろう。
 それなのに、マスコミは「とにかくON」なのである。本日のスポーツ新聞を見ても、一面の見出しはすべて「王」だった。TV中継などでもところどころでわざとらしく「ON対決」を前面に出そうとしている。
 もちろん、両チームの監督がかつての名コンビであったという事は今回の日本シリーズのファクターの一つである事は否定しない。しかしながら、30代以上のジャイアンツファン以外の野球ファンにとってはさほど重要な事ではない。むしろ2000年の日本シリーズをやっている選手たちをさしおいて、監督たちの四半世紀以上前の活躍を前面に出されても困るだろう。
 せっかくの年に一度の日本一を決める戦いなのである。主役はあくまでもグラウンド上で戦っている選手(および、昨年までは活躍できたが、今回の日本シリーズには出ることができなかった選手)なのである。その事を十分念頭において報道してほしかった。
 もっともスポーツマスコミは「野球を見るのは一定年齢以上の人で、若い人は野球など見ずにサッカーしかみないから、そのような世代の人などどうでもいい」と確信をもって報道しているのかもしれないが。