野球界慣用句雑感
野球界で「常識」のように言われている慣用句がいくつかある。ベテランの評論家を始め、現場で長年試合をしてきた元選手や、長年見てきた元記者が言うのだから、最初の頃は、「まあ、そんなもんなのだろう」と思っていた。
ところが、言われている内容を考えているうちに、どうも違うのでは、と思えてくる言葉が少なからず出てくる。そのような「慣用句」について、本稿で考えてみたい。
1.代わった所に打球が飛ぶ?
2007/1/28
主に終盤、リードしているチームが「守備固め」を行うことがある。すると、先頭打者の打球がちょうどその守備固めとして登場した選手の所に飛ぶ。それを見たアナウンサーと解説者が「やはり代わった所に打球が飛びますね」「ええ、不思議なものですね」などという会話が行われる。
昔から、何度も聞かれる会話だが、果たして本当に「代わった所に打球は飛ぶ」としたものなのだろうか。
筆者が観戦した経験からすると、とうていそうとは思えない。ここ数年、一番多く観戦しているマリーンズ戦を例にして挙げてみよう。
勝っている試合の最終回になると、たいてい、バレンタイン監督は外野手を代える。場合によっては二人を交代させ、残る一人も場所を代えるため、全員が交代となる事すらある。しかし、だからと言って、その回に外野に球が飛びまくる、という事はない(まあ、あったら困るのだが・・・)。場合によっては、内野ゴロと三振だけで最終回が終わり、「守備固め」の選手は球を追う機会すらなかった、などという事も珍しくない。
そういう観点も含め、特に印象に残った試合があった。0対0で迎えた9回裏1死満塁という場面の事である。打席には左方向に長打も放てるが、右方向にも飛ばせる打者が入った。安打になればサヨナラだが、深くない外野フライなら本塁でアウトにできる可能性もある。したがって、守備側の指揮官は外野守備を大幅に代えた。
まず、守備にはあまり評価の高くない左翼手を下げ、俊足強肩の選手を中堅に出した。ここまではまあ普通だが、ここから先が印象に残った。まず最初に、それまで中堅を守っていた選手Aがいったんは左翼の守備についた。ところが、しばらくすると、その選手Aが右翼へ行き、それまで右翼を守っていた選手Bが左翼に動いた。守備力的には選手Aのほうが上だ。おそらく、指揮官は右翼と左翼のどちらに球が飛ぶ可能性が高いか最後まで迷い、右翼のほうがわずかに可能性が高いと思ったのだろう。
これで、右飛が上がり、タッチアップした三塁走者を本塁で刺せば、名采配かつ「代わった所に打球が飛ぶ」の典型例だったのだろう。しかし、残念ながらこの打席で暴投があり、それでサヨナラ。指揮官の苦悩や決断と全く関係ないところで試合が決まってしまった。
ここまで極端な事例はそうはないだろうが、ここで三つの事が分かる。一つ目は、指揮官は打球が飛びそうな場所を選んで「守備固め」をする、という事。二つ目は、にも関わらず、そこに球が飛ばない事も多々ある、という事だ。そして三つ目は、そう言う事象が発生した時に、放送席で「代わったところに打球が飛びませんでしたね」と言わない、という事だ。
野球の記録というのは非常によく整備されている。何か珍しい事が発生すると、その直後に、「これは193×年○月△日の阪急−南海戦に次ぐ記録ですね。二リーグ制になってからは新記録です」などとアナウンサーが言ったりする。
それだけのデータを持ちながら、このようなデータに準拠しない事を言い続けるのはいかがなものだろうか。
もちろん、実際に代わった直後の選手に打球が飛ぶことがある。しかし、それに対して判で押したように「代わったところに打球が飛びますね」と言い続けるのでは芸がないと思う。
状況から、その交代の意味と打球を分析してほしいものだ。そして仮にもしそれが、守備側の読みが当たってのものなら「この状況・選手では三塁に強い球が来そう、と思ってあらかじめ代えていた守備側の采配が成功しました」と言えば、より野球放送も面白くなるのでは、と思う。