千葉ロッテマリーンズ監督解任問題について

2009/1/1

 2008年12月21日昼に、千葉ロッテマリーンズ球団が、来シーズン終了後にバレンタイン監督を解任する事を発表した。シーズン開始直後の監督解任は過去何度かあったし、大昔はシーズン開始前に解任、という事もあった。また、10年ほど前には、ヤクルトスワローズの社長だかオーナーが、シーズン前に「野村監督は今年限り」と発言した事はあった。もっとも、その年に野村監督は日本一となり、結局は留任となっている。
 いずれにせよ、「シーズンの指揮は取ってもらうが、結果に関わらずそのシーズン終了後に解任」という正式発表は史上初だろう。
 解任を決めた事自体にも疑問は残るが、それ以上に、「この時期に決定・発表」を行なった事は異常すぎる。本稿では、一連の球団の行動についての考察および、そのような体質を生み出した球団の体質、それに関する報道などについて述べてみたい。

1.シーズン前に解任を発表する事の問題点

 今回、12月末に解任発表を行なったのは、以前から解任を企てていたところ、バレンタイン監督が一つ失策を犯し、それにつけこんで事を一気に進めたと思われる。その監督の失策とは、韓国でFAになった金東柱選手の身分照会を行なった、というものである。
 球団内の職務分担については知らないが、バレンタイン監督もこの件については非を認めている。そして、瀬戸山球団代表・社長側はこれを理由に、一気に目的を達成しようとしたのだろう。
 ただ、今回の話はその失策ゆえに急遽浮上したわけではない。。シーズン中である9月に、バレンタイン監督が自ら報道陣に、球団から辞任勧告を受けた事を明かしている。その際、球団は否定したが、今回の結果を見る限り、バレンタイン監督の発言が事実だったと言わざるを得ない。
 今回の問題は、監督解任の是非と、前代未聞のこの時期に発表した事の二つを分けて考える必要がある。解任の是非については後で書くとして、まずここでは、この時期で決定・発表した事についてのみ書いてみる。
 まず、来期のチームにおいて、何か利点はあるのだろうか。いくつか考えてみたが、一つくらいしか思いつかなかった。一方、問題点は多数存在する。
 一番の問題は、チームの士気低下だ。このまま進めば、2009年シーズン終了後には、監督に限らず、外国人コーチを始め、バレンタイン監督主導で入団した人たちもあわせて退団する事になるだろう。
 もちろん彼らはプロだから、今季限りの契約解除が決まっているから仕事の手を抜く、という事はないとは思う。ただ、当然ながら来期以降を見据えて采配をふるうのと、今季限りを前提とするのでは、内容は異なってくる。
 私も二度ほど転職した事がある。その際、退職が決まった後の仕事において、これまでやってきた事の残務整理と引き継ぎに関しては、可能な限り頑張った。しかしながら、その先を見据えた仕事は、やった所で終わるわけでもないし、中途半端に手がけても、引き継いだ後任者に迷惑がかかるだけなので、一切行えなかった。
 もし、何が何でも2010年にバレンタイン監督と契約しない事が決まっているのなら、来期分の年俸+違約金を支払ってでも即座に解任し、西村コーチの昇格など、新体制を作って2009年に臨むべきだろう。
 このような決定・発表を行なった経営陣には疑問を感じざるを得ない。したがって、今回の件は、チームおよびファンにとって、百害あって一利くらいしかない、と思っている。その「一利」が何かと言うと、それは、「まだ事態が急変して白紙撤回となり、責任問題となって逆に瀬戸山氏解任となる可能性が残されている」という事だけだ。これが来シーズン終了後の決定・発表だったらそうはならない。それが現時点で唯一の希望である。

2.解任決定の是非について

 前項では、「解任が覆らないなら、来シーズン終了後などと言わず、即座に解任すべきだ」と書いた。ただ、これはあくまでも今回の決定・発表が異常すぎるからであり、実際に筆者は解任自体も間違っていると考えている。
 今回の件に関する報道は、球団側の発表およびリークをそのまま載せており、完全に「反バレンタイン監督」という姿勢になっている。その問題点については後述するが、そのような立場で書かれた記事を見てもおかしく思える事ばかりである。
 まず、最大の原因として上がっている、球団が赤字で年俸が高すぎる、という事だ。しかし、別にバレンタイン監督が自分一人で年俸を決めたわけでなく、あくまでもこれは球団との契約である。
 つまり、2006年からの契約条件を提示した時点で、経営レベルでの失敗があっただけの話だ。また、どうしても年俸が支払えないのなら、2010年以降の契約交渉の際に、球団として妥当と思う年俸を提示し、それがのめないなら契約しない、という形にすべきだろう。
 これだけ観客動員が増え、スター選手も登場しているというのに目標としていた赤字削減が達成できなかったというのならば、それは経営者である瀬戸山球団社長兼代表の責任である。赤字が問題ならまずその責任を明確にし、しかるべき処置を取るべきだろう。
 いずれにせよ、「球団が赤字で、監督に年俸が支払えないので、実績はあるにも関わらず来季限りで辞めてもらう」というのは、極めて異常な話だ。1995年秋の「GMの広岡氏との関係が悪化したため解任」のほうがまだマシである。

3.球団の経営方針について

 先日の瀬戸山氏のインタビューによると、とにかく赤字はバレンタイン監督および彼の連れてきたスタッフの年俸が原因との事である。それがなくなることにより、赤字は毎年5億円ずつ減っていくそうだ。これまで、いろいろな有名監督がいたが、ここまで経営者に敵視された人もいないだろう。
 ちなみに、2005年に優勝した年明けに行なわれた瀬戸山氏のインタビューでは、赤字の原因についても解消方法についても、全く異なることが書かれてある。もちろん、優勝直後という事もあり、バレンタイン監督についてはベタ褒めだ。
 グランド上でのバレンタイン監督を褒めると同時に、2004年に自分が着任して行なった「改革」を自画自賛している。その内容として、「若手選手の育成環境の向上」「スカウトの強化」「法人営業のテコ入れ」「ファンサービスの向上」を挙げ、それにより、37億円の赤字を28億円にまで縮小させたと発言している。
 ちなみに、今回発表した赤字額も28億円だから、優勝してから三年間、赤字額は全然減らなかったわけだ。まあ、瀬戸山氏にすれば、それはすべてバレンタイン監督のせい、という事になるのだろうが・・・。
 それはともかく、このインタビューと球団の現状を比較すると、このまま、瀬戸山氏に任せて赤字は減るのか、疑問を持たざるをえない。
 まず育成およびスカウトについてだが、確かに2005年から2006年にかけては二軍もイースタンで優勝するなど、層の厚さを感じることができた。ところが、2007年以降は、上がってくる若手も少なくなり、二軍の成績もチーム・個人とも冴えない。そして、今季終了時の退団選手は八人中五人が20代前半だった。中には二年前の高卒ドラフト一位だった柳田選手も含まれていた。最近では高卒数年での解雇も珍しくなくなりつつあるが、ここまで多いのは珍しいだろう。
 このような現状を見ると、育成に関する「経営改革」は、瞬間的な効果しかもたらさず、長期的には失敗だったのでは、と思えてくる。

 観客動員についても同様だ。法人営業の事は自分とは関係ないのでわからない。しかし、「ファンサービスの向上」については、実際に色々経験していることもあり、大いに疑問がある。
 確かに、イベント開催などは増えた。ただ、これは別に千葉に限った事ではない。2004年に起きた球界再編以降、どこでも行なっている事である。他球団のイベントに行ったことはないが、報道で見る限り、ロッテ球団の行なっているものが図抜けているとは思えない。
 もちろん、2004年以降に始まった中で、優れた企画もあった。試合終了後の球場正面ステージでの「二度目のヒーローインタビュー」は画期的だった。また、プレーオフ前日に行なった決起集会もいい企画だったと思っている。また、2007年より始まった、正月の球場開放と選手トークショーや、今年再開された秋季練習見学会なども成功だと思うし、実際に参加して楽しませてもらった。
 したがって、ファンサービス改善が行なわれていない、とは言わない。しかしながら、参加者としては、その一方で、質の低いサービスの存在および、サービスの質が低下したを思うことが少なからずある。
 代表的なのは、毎年秋に行なわれるファン感謝デーだろう。2004年に参加した時は、心底面白いと思ったが、それ以降、改悪を感じた事はあっても改善を感じた事はない。
 他にも、年を追う前振りの時間が増えたプレナ幕張の新春トークショーや、前振りを2時間近くやった後、選手は10分間しか台上に上がらなかった「2007年決起集会」など、改悪されたり不評だった企画は多い。他にも、「球場で行なうイベントの際に、入口が少なく、ファンが延々と待たされる」のように、何年経っても改善されない問題点もある。
 これらの事に共通している事として、「ファンの視点で物事を企画できない」というのがあると思う。というより、一部企画の改悪ぶりを見ていると、むしろ年々「ファン軽視」が進んでいるのでは、と思えてくる。
 球団経営側の「ファンに対する認識」で忘れられないのは、2005年交流戦優勝時の賞金の使い方だろう。この時、球団は「賞金はファンに還元する」と宣言した。ところが、実際に行なったのは、「四台の京成バスにユニフォーム柄のラッピングを施す」であった。確かに、「ファンの背番号」である「26」をつけたり、スタンドの写真を使うなど、「ファン」を意識してはいる。
 しかしながら、これのどこが「ファンへの還元」なのだろうか。相変らず、試合終了後にはバス待ちの長蛇の列ができたままだし、やっと乗っても球場敷地内から出るのに一苦労、という渋滞もそのままだ。ラッピングされたバスは試合があろうとなかろうと、普通に街中を走っている。つまるところ、球団の広告宣伝に使っただけでしかないのだ。何も「還元」などされていない。
 他にも、2005年初頭に、集客アップのために駅から球場までの道に人工芝を敷くなどと意味不明の「ファンサービス計画」を瀬戸山氏が発言した事もあった。また、その数ヶ月後に行なわれた本拠地開幕戦の際に作られた「相手球団を小馬鹿にするようなポスター」を見たときは、本当に不快に思ったものだった。
 これらの事例を見ていると、当時から瀬戸山氏を初めとする経営陣は、「ファンサービス」について、何か勘違いしていたように思える。そして、それはそれが年々悪化しているようだ。

 もちろん、実際に2004年以降、球団の集客が向上しているのは事実だ。実際、筆者も2004年になってから、飛躍的に球場に行く回数は増えた。しかし、それは瀬戸山氏自慢の「ファンサービス改革」のためではない。
 それまで、球団の経営を見ていて、「勝つ気」を感じる事がなかった。それが、バレンタイン監督の復帰を始め、チームを強くする姿勢を感じ、それで球場に行く気が起きたのだ。蛇足だが、バレンタイン監督の復帰を決めた2003年秋の時点では、瀬戸山氏はまだロッテ球団には入っていない。
 瀬戸山氏就任以降のファンサービスで、向上した部分もある事は否定しない。しかしながら、球場に足を運ぶ最大の理由は、優勝を目指して闘うチームを見ることである。少なくとも、筆者にとって2004年から球場に行く回数が増えた理由として、「チームの強化」と「一部ファンサービスの向上」の比率は9対1以上である。
 今回のバレンタイン監督解任は、「球団改革」の第一弾だそうだ。しかし、チームを日本一・アジア一に導いた監督に赤字の原因を押しつけ、さらには若手が育っていないのに「若返り」を掲げているわけだ。このような「勝利より経費」という考え方で、現在の観客動員を維持できるかは極めて疑問である。

4.マスコミの報道について

 さて、今回の件についての報道だが、論評は全てバレンタイン監督が高年俸が球団経営を圧迫する上に行動にも問題があり、解任は仕方ない、という、球団側の主張をそのまま報じているものがほとんどだ。
 その象徴とも言えるものが、バレンタイン監督が12月22日に書いたブログに関する対応だろう。そのブログにおいて、バレンタイン監督は「自分の年俸が二割増しで報道されている」「経営しているレストランの赤字まで球団が補填する契約になっているという報道は事実に反している」と批判している。一方で、後段では「自分は『年俸はいりません』と球団に言ったが拒否された」と書いている。
 この後段部分について、瀬戸山氏は即座に「事実でない」と否定し、それが記事になった。これについては、原文と比較すると誤訳のように思われるから、瀬戸山氏の談話のほうが正しいだろう。
 それ自体は問題ないのだが、では前段部分についてはどうなのだろうか。こちらについては、事実を確認するどころか、完全に黙殺している。つまりは、この部分については、「事実を確認して批判」ができないわけだ。
 同じブログ内の記事でも、監督に不利になる事は取り上げ、有利になることは無視する、というのがスポーツ新聞各紙の方針であることが、よく分かった記事だった。

 瀬戸山氏がダイエー球団在籍時に上司だった故・根本睦夫氏は、マスコミの操縦が得意だったそうだ。そのためには、懇意の記者に、明らかに事実と異なる記事を書かせた事もあるという。
 その影響をどれだけ受けたか知らないが、今回の件において瀬戸山氏もスポーツマスコミを上手く活用し、有利な環境を築いているようだ。ただ、これだけ露骨な報道が続くと、読んでいるほうとしては、「また瀬戸山氏とスポーツ紙がつるんで胡散臭い情報を流している」としか思えなくなってしまうのだが・・・。

5.球団の方向性について

 繰り返しになるが、瀬戸山氏は、球団の赤字削減が進まない原因を、バレンタイン監督をはじめとする、一部ユニフォーム組の年俸が高すぎるため、と認識しているようだ。解任発表と同時に「チームの若返り」を挙げているが、これを字面の通りに解釈すれば、「高年俸選手のFA流出を容認し、代わりに若手選手起用する」となるだろう。
 確かに、広島カープはそのような「若返り策」の成功もあり、長年、黒字経営を続けている。瀬戸山氏の真意はわからないが、発表された情報を組み合わせると、そのビジネスモデルを目指しているのだろうか、と思えてくる。
 それはそれで一つの経営手法だろう。ただ、広島と千葉では本拠地における歴史が異なる。さらに、瀬戸山体制が行なってきた「ファンサービス」を見ていると、そのような戦力削減を行なった後のチームが、広島同様に収益を維持できるのか、という疑問が残る。

 一方、瀬戸山氏に赤字の元凶呼ばわりされているバレンタイン監督だが、氏も別に球団の赤字を問題視していないわけではない。それどころか、少なからず赤字減少のための提言を行なっている。
 その提言の内容は、現在の読売球団を中心とした、日本プロ野球の体制そのものを見直す、というものだ。テレビ放映権を始め、大リーグのような利益分配体制の導入を一度ならず主張している。
 もちろん、これを実現させるのは容易ではない。一監督ではもちろん、一球団レベルで動く程度でも無理だろう。それに比べれば、確かに「広島的経営」を目指す方が、極めて現実的である。
 ただ、「読売中心体制」で順調に回っていた時代が終わりつつあるのもまた現実だ。その中で、功労者を切りながら何とか黒字を目指す人と、将来を見据えて抜本的な変革を起こして黒字が出せる体制を目指す人では、どちらが球団にとって有益なのだろうか。
 今回の件は、筆者としてもかなり不愉快な事が多かったし、それは現在でも続いている。ただ、そのようにファンとして球団の現状・未来の問題を考える時間を得た、という事においては、貴重な機会だったと思っている。
 そして、最終的には球団・監督・選手・ファンにとって、いい結果になる事を強く願っている。

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