2009年のスポーツ紙報道で気になった事
2009/12/12
今年のプロ野球で読売が快進撃する度に、「これまでとは違い、選手を育てている」という報道が繰り返し行なわれた。それを読んで、少なからぬ人が、「今年の読売が日本一になったのは、金と権力にものを言わせての戦力による好成績ではない」と思ったようだ。
しかし、それはどこまで事実なのだろうか。データをもとに検証してみたい。あわせて、他にも気になるスポーツ関係の報道が散見されたので、それについても論じてみる。
1.今年の読売の日本一は、金にあかせた補強によるものではなかった?
今年、何度、「読売はこれまでと違い、選手を育てた」と報じられただろうか。もっとも、そのほとんどが、「高卒入団の坂本選手と、育成出身の松本選手による一・二番コンビ」だった。続いて、「大卒ドラフト4位の越智投手と育成出身の山口投手による中継ぎ二枚看板」だった。もっとも、中継ぎの二人は昨年から活躍しているので、あまり報道されなかったが。
ではここで疑問だが、果たしてその一・二番コンビがいなければ、今季のこの成績はなかったのだろうか。
たとえば、読売に大差をつけられたとはいえ二位となったドラゴンズの一番打者である井端選手は、打率はほぼ同じで出塁率は上だ。しかも同じ遊撃手として坂本選手を上回る評価を得てゴールデングラブ賞を受賞している。そして、二番の荒木選手も規定打席に達してゴールデングラブ賞を取っている。ちなみに、松本選手は規定打席に達していない。
もちろん、読売の一・二番が大して活躍しなかった、などという事は断じてない。しかしながら、少なくとも他球団を圧倒した一・二番とは言えないだろう。
では、読売打線で他球団を圧倒したのは何だろうか。それは、小笠原選手とラミレス選手による三・四番だ。タイトルはラミレス選手の首位打者だけだが、何とこの二人、打撃三冠において、いずれもベスト5に入っているのだ。率も残して長打もあり、好機に強いのが二人も並んでいるのだから、相手球団はたまったものではない。
ちなみにドラゴンズも、四番のブランコ選手が二冠を取り、森野選手もほぼ同じだけの打点を残すなど、それらの数字は読売の三・四番を上回りはした。しかし、打率では大差があった。
さらに他球団と差があるのは、そこから下だ。谷選手・阿部選手といったところが六・七番を打ち、レギュラーシーズンでは出遅れたものの、日本シリーズに間に合った李選手が八番に入った。これら長打力のある下位打線のおかげで、三・四番でチャンスメイクして、下位打線で返す、などという攻撃パターンまで作れたわけだ。もちろん、こんな球団は他にない。
ついでに言うと、レギュラーシーズはほぼずっと不振だった李選手は、二軍の試合に出場した。不振とはいえさすがに格の違いを見せてイースタン優勝に貢献し、ファーム日本選手権にも出場した。おそらくは、同選手権に出場した選手の中で史上最高年俸だろう。
しかしながら、報道では「育成の象徴でもあるイースタン優勝」などと書かれるのだ。
一方、投手陣では、生え抜きが不調で、一時期は「読売としては何十年かぶりに日本人投手に二桁が出ないかも」などとまで言われた。何とか一人が10勝を挙げて滑り込み、その珍記録は達成されなかった。
では、ローテーションを支えたのが誰かというと、ゴンザレス投手とグライシンガー投手という、いずれも東京から移籍した外国人投手だ。グライシンガー投手は、一年目で好成績を挙げたら即移籍、ゴンザレス投手に至っては、最近の二年はほとんど登板できず、読売に移籍したら大活躍だから、東京ファンとしては泣くに泣けないだろう。
さらに凄いのは救援陣だ。冒頭に書いたように、中継ぎ二枚看板は確かに生え抜きだ。しかしリリーフエースはこれまた横浜にいたクルーン投手だ。さらに、中継ぎ三番手は埼玉の元リリーフエースである豊田投手で、今季は絶不調だったが、トレードで北海道のリリーフエースだったM中村投手も加入した。
したがって、読売戦で、救援登板可能投手リストを見ると、他球団の前リリーフエースが三人いた日が多々あったわけである。これまた、他の球団ではあり得ない話だ。ちなみに、来年は元千葉のリリーフエースである小林雅英投手も加わるらしい。
こうやってみると、改めて、いかに他球団の主力選手をかき集めているか分かる。
上記の「育てた」報道は、よく「これまでの優勝とは違う」という修飾語がついた。それが正しいかも検証してみたい。
というわけで、前回読売が日本一となった2002年と比較してみる。2002年の日本シリーズと2009年を比較すればよく分かる。
当時と今回の最大の違いは、「逆指名・自由枠選手がいない」という事だろう。この制度は、読売球団による「栄養費事件」発覚がきっかけで廃止された。それができなくなったため、代わりの戦力を他球団主力外国人選手に求めたわけだ。
また、前回の日本一の選手が一人残らず「他球団の主力と逆指名」だったわけではない。一番で活躍した清水選手はドラフト3位だった。さらにこのシリーズで代打および指名打者試合でのスタメンで活躍して優秀選手を獲得した斉藤選手は高卒ドラフト4位という「育てた選手」だ。
そして何より、当時のチームの顔だったのは、FAで獲得した工藤投手でも清原選手でもなく、松井秀喜選手だった。高校時代から圧倒的な実力を持っていたため、「読売が育てた選手」とはあまり言われない。とはいえ、ドラフトの抽選によって入団した、純然たる生え抜き選手だ。その選手が打線の要だったわけである。
今年の日本シリーズにおける読売スタメンを見ると、抽選で入団した選手としては、一・二番の他には五番の亀井選手が定着していた。つまり、2002年の時と人数的には変わらない。そして、2002年では不動の四番がその中に含まれていたわけだ。
投手陣も同様だ。FAや逆指名の選手もいるが、生え抜きの投手も普通にいる。少なくとも、ブルペンに他球団の元リリーフエースが三人もいる、などという事はなかった。
もちろん、2002年の読売の戦力構成が普通だった、などという事はない。他球団と比較すれば明らかに「金と権力でかきあつめたチーム」だ。ただ、2009年の読売と比べれば、特に違いはない。逆指名選手が他球団の主力外国人選手に置き換わったくらいだ。
これらのデータから導き出される結論は、「今年の読売日本一は、7年前同様、むしろそれ以上に、金と権力で選手をかき集めたゆえの優勝」以外になりえない。
ではなぜ、世間は「これまでと違う、選手を育てての優勝」と報じるのだろうか。
その中で非常に印象に残った事例が、秋口の東京−読売戦であった。序盤で読売の攻撃中、解説の関根潤三氏は、読売の三・四番の安定度を褒めちぎった。まあ、野球の見方を知っている人なら、誰でもそう言うだろう。ところが、次かその次のイニングで、いきなり関根氏は「三・四番だけで勝っているんじゃありません。一・二番の二人が」と話し始めた。いきなり、十数分前の発言を自己批判し始めたわけである。
確かに関根氏は高齢だし、以前から天然ボケ的な発言はしていた。しかしながら、いくら何でも、直前の発言を忘れるとは思いがたい。
そう考えれば、「読売の強さは三・四番」と発言したのに対し、第三者から「訂正の指示」が入ったと考えるのが自然だろう。
要は、読売の優勝をイメージアップさせるために、事実である「金と権力で選手をかき集めた」を隠して、「選手を育てた」という作り話を、複数のマスコミが協力して流すような「報道規定」が、かなり前から構築されていたわけだ。
そして、事実と正反対である、「今年の読売は、育てた選手によって日本一を勝ち取った」という報道が流れ続けたわけである。
2.発言の捏造
つい先日、タイガースの藤川投手が、城島選手加入に対し、矢野さんと組みたいと発言した、という報道が読売系スポーツ紙で流れた。
それに対し、藤川投手は自身のブログで一部報道で、城島さんが阪神に入る事を僕が良く思っていないというような記事が出ていると聞きました。当然ですが、全くそんなことはありません。と捏造であることを指摘している。
Googleニュースで「藤川 城島」「藤川 矢野」などで検索して出てくるのは上記の記事だけだ。しかしながら、当人が完全に否定したにも関わらず、この記事には訂正も追記もなされていない。
選手・監督などがブログを開設する事により、このような捏造が明らかになることは多々ある。しかし、いくら指摘を受けても、該当記事を書いた新聞社は無視するだけだ。
昨年、タイガースのもう一人の看板選手である、金本選手にも同様の事件が発生した。本人はファンの皆さん、新聞記事に惑わされないで下さい。とはで書いている。
その結果、選手のマスコミ談話が減り、必然的に、マスコミは取材不足の記事を載せ、読者の信頼度はますます落ちる、という悪循環が発生している。
3.記者の不勉強
スポーツ紙で記事を書き、それを紙面でネットで発表している記者なのだから、担当しているスポーツについて、深い知識を持っているに違いない、と一般的には思われているだろう。筆者もついしばらく前までは、そう認識していた。
ただ、ここしばらく見かける初歩的な間違いや知識のなさを見ていると、その認識は正しくない、という事を確信するようになった。
ごく最近だと、パリーグのCSだ。最終戦終了後、この試合が最終試合となった野村監督の胴上げを東北の選手が行なった。すると、過去に世話になっていた稲葉選手や吉井コーチがいた事もあり、相手である、北海道の選手も胴上げに加わった。
すると、翌日のスポーツ新聞で、これが「史上初の両チーム選手による胴上げ」という記事になった。ところが、これは史上初でも何でもない。
1981年には、当時近鉄バファローズの西本幸雄監督が勇退する最後の試合で、相手の阪急ブレーブスの選手も一緒に胴上げをした。これは、西本監督が阪急でも監督をしており、選手の多くが元部下だったからである。
もちろん、28年前の話ではある。しかし、「史上初」と書くなら、これくらいの事例があったかは調べておくべきだろう。要は、「名監督」と呼ばれたひとの小伝を読んでおけばいいだけの話だ。
また、2004年、近鉄バファローズが潰された。この最終戦で、当時の梨田監督が胴上げされたが、その中には、相手球団所属で、かつての仲間である、吉井投手・大島選手(いずれも当時)も加わっていた。吉井投手はわざわざ帽子に相手チームである近鉄バファローズのマークまで描いていた。
もちろん、相手チームの全員が加わったわけではない。ある意味「参考記録」だが、両チームの選手で胴上げをやっているのは事実だ。
わずか五年前で、かつ野球史における重要な事件に関する物である。それも認識せず「史上初」と書くのだから、無知ぶりをさらけ出していると言うよりない。
さらにこのCSの第一ステージで、20歳11ヶ月の田中投手が無四球完投勝ちを達成した。これは、「ポストシーズンにおける無四球完投の最年少記録」だそうだ。それはもちろん凄い事であるし、記事にすべき事だろう。ただ、そこから後で、スポーツ紙の記者たちは、とんでもない無知もしくは非常識な書き方をした。
田中投手が達成するまでの記録を持っていたのは、故稲尾和久投手で、1958年の日本シリーズの時に21歳4ヶ月達成している。それを抜いたという事で少なからぬ新聞は「稲尾越え」と書いた。
ただ、同じ無四球完投でも、この二つの記録の意味合いは数段違う。この年の日本シリーズで、稲尾投手が所属する西鉄ライオンズは開幕から3連敗をした。ちなみに、その3連敗の試合で稲尾投手は無四球1失点で完投しながら、援護がなく敗戦投手になっており、これが「記録」になったわけだ。
ところが、そこから西鉄ライオンズは4連勝を達成する。そして、その4試合で稲尾投手は全て白星を挙げた。さらにはサヨナラ本塁打まで放っている。
新記録なのは事実だから、そう書くことは問題ない。ただ、その21歳の稲尾投手が成し遂げた事を考えれば、その「無四球完投」だけを取り上げて「稲尾越え」と書くのが正しいとは到底思えない。
数年前に藤川投手が最多登板記録を達成した時もそうだった。この記録も、確かに「登板数」では抜いている。しかし、投球イニング・勝利数などを比べれば稲尾投手の記録は次元が違う。にも関わらず、マスコミは「稲尾越え」と書きまくった。
単に「史上最年少記録」「最多登板記録」と書けばいいだけの話だ。にも関わらず、記録の中身の違いを吟味せずに、「稲尾越え」などと安易に書かれた記事を見ると、いかに彼らが、当時の記録の凄さを勉強していないかが分かってしまう。
さらに、野球の常識も知らない分際で現場の人間に対して無礼千万な記事を書く、というのも見かけられた。一番呆れたのは、千葉対埼玉の試合で、1対0の完封負けをしたバレンタイン監督に対し、記者が「采配批判」をした記事だった。内容は、「1死3塁で不振の打者が出たところで、なぜスクイズをしなかったのか」というものだった。それに対する回答は「カウントが2-2になったから」というものだった。
ただでさえ、スクイズというのは読まれた時のリスクが高い。ましてや、「スリーバントスクイズ」はファウルすら許されないのだ。
しかも、この記者ですら「ここでスクイズはある」と思っているのだから、相手チームも当然警戒している。普通は強打だろう。
ところが、この記者氏はスリーバントスクイズのリスクなど知らないのか、カウントに関する指摘を無視してもともと小技がうまい選手。好調涌井のリズムを崩すためにも、勝負に出る積極性が必要だった。などと偉そうに書いているのだ。
球団の意向を受けた上司より、「采配批判しろ」という指示があったのかもしれない。とはいえ、この記者の専門知識の低さと、実績のある監督に対する非礼さはやはり異常すぎる。
4.書くべき事を書かずに印象操作
野球の事ばかり書いたが、最後にサッカーの話を一つ。
今年の秋、大分トリニータのユニフォームスポンサーが降板し、新たな会社と契約した。ところが、その会社は特定取引法違反の連鎖販売業者として、経済産業省より6ヶ月の営業停止処分を受け、それが解除されたばかり、という所だった。
サポーターとしてはたまったものではないだろう。自分の愛するチームが、違法な連鎖販売で利益を挙げた会社の広告塔になるわけだ。さらに、レプリカユニフォームを着るとなれば、自らが広告塔になることになってしまう。
当然、サポーターは反対運動を起こし、スタジアムには抗議の横断幕が並んだ。
ところが、それを報じた記事を見たのだが、何故サポーターが抗議したか、という事についていっさい書かれていなかった。
この記事だけ見ると、サポーターが理不尽な暴走をして、何の落ち度もないスポンサーを怒らせたとしか解釈できない。
別に該当する企業の風評などを記載すべきだとは思わない。ただ、ごく最近に違法行為をおこなって営業停止処分を受けたという事実は載せるべきだろう。何しろ、そうしないと、読者にはなぜサポーターが抗議したのか理解できない。
なお、サッカーには疎い筆者だが、この記事を読んですぐ、その不自然さが気になり、スポンサー名を検索した。その結果、上記の経産省ページが出てきたわけである。そこまで簡単に調べられる情報を知らないわけがない。つまりは、知っていてわざと書かなかったのだ。
つまり、このスポーツ新聞社にとっては、スポーツを愛好し、チームのことを応援する人達よりも、経産省から営業停止を食らった業者のほうが優先されるわけである。
いずれの例にも言えることだが、報じられている事を鵜呑みにしてはいけない。少しでも違和感を感じたら、必ず裏を取らないと、思わぬ誤解をする羽目になってしまうわけだ。残念ながら、それが現在の「スポーツ報道」の質なのである。