圧倒的戦力差の生み出すもの

2002/11/04

 2002年の日本シリーズ第3戦、先制されたものの清原選手の本塁打で同点に、次の回には勝ち越し、それを工藤投手が守って勝ち投手になる、という展開だった。ある意味、ライオンズと読売の現在の力関係の差を示す、象徴的な展開といえるかもしれない。
 清原・工藤両選手とも、かつてはライオンズに在籍した。それがフリーエージェント(FA)制度で、最終的には読売に移籍した(工藤投手はホークスを経由しているが)。
 大物選手の移籍は昔からあった。しかしその多くは交換トレードという形でその選手にみあった戦力が相手球団に移籍されている。しかし、FAの場合は違ってくる。戦力保証と言っても、「プロテクト」された主力以外から交換要員を選ぶか、金銭保証のいずれかである。その結果、ライオンズのかつての主力が読売でプレーする一方、ライオンズにはそれに対応する選手はいない、という形になってしまった。
 他の選手も読売への入団経緯は似たようなものである。江藤選手はFAだし、上原・両高橋・二岡・仁志・河原の各選手は逆指名ドラフトによる入団、桑田投手は進学を表明して他球団の指名を回避しての読売単独指名、元木選手はホークスに指名されたものの拒否して翌年読売に指名された。普通の競争ドラフトによって入団したのは松井・清水の両選手くらいだ。
 一方、ライオンズは伊東捕手兼コーチや高木大成選手など除けば、主力選手の多くは通常のドラフト指名による入団である。FA選手は一人もいない。もちろん、ドラフト4位から大リーグの首位打者になったイチロー選手のように、アマ時代に目立たなくてもプロ入り後に大成する選手もいる。しかし、実際にはプロで活躍する選手の多くはアマ時代から話題になっている。ましてや、プロの実績があるFA選手まで入ってくるのだ。こう考えれば、両チームには抜本的な戦力差があるのは明白だろう。
 このような読売の戦力構成のきっかけとなったのが、1993年に実施された「逆指名ドラフト」と「資本力のある球団ほど得をするFA制度」である。制度の開始から丸十年たった今年、ついにこれらの制度の導入推進した渡辺オーナーの望んだ「読売完全優勝」とし「花開いた」と言えるのかもしれない。オーナーや監督は「10連覇」などと言っているが、この戦力と戦力供給システムがあれば、夢物語ではないだろう。大リーグ移籍の松井選手の穴など、埋まってお釣りがきそうな雰囲気だ。

 しかし、その「圧倒的覇者の読売」はファンに何をもたらすのだろう。30年前の9連覇の時代なら、野球の他のスポーツといえば、相撲くらいしかなかった。したがって、読売が勝ってばかりいても、野球への興味は失われなかった。現実世界で優勝し続ける読売に架空のヒーローが入団して、さらに勝たせる、という漫画がヒットするような時代だった。
 しかし、現在はそうはいかない。サッカーを筆頭に、野球に替わりうるスポーツが普及している。また、野球そのものも衛星放送の普及などにより、大リーグの中継が日常的に視る事ができるようになっている。
 実際、TV野球中継の視聴率は低下している。TVの視聴率と言っても、TVが12球団を満遍なく中継しているわけではない。地上波では基本的には読売の試合が9割以上を占める。つまりは、読売の試合の視聴率は戦力の増強と歩を一にせず低下しているのだ。
 しかし、全球団の観客動員数の推移を見ると、特に減っているような感じはない。つまりは、圧倒的戦力を集めてただ勝つだけの読売の野球がソッポを向かれているだけなのだが、野球機構やマスコミはそうは考えない。野球機構は読売がより有利になるような規定を設定するのみだし、マスコミは読売のひいき放送を強化するばかりだ。その結果、ますます読売の野球中継は試合内容も放送内容もつまらなくなる。
 実際、タイガースファンであるはずの筆者も、今年はほとんどタイガースと読売の試合は見なかった。スカパーを入れたので、普段のタイガースの試合は中継で見たが、読売戦の時はスカパーで他のカードを見ていた。そのくらい、読売戦の中継はあらゆる意味でつまらなかった。

 もちろん、筆者がこのような考え方になるのは、子供の頃から読売が嫌いである、という感情が基点になっている。しかしながら、今回の日本シリーズに関して言えば、これまでの、読売が勝つ事を悔しがる感情はあまり生じなかった。それよりも「こんな手段でで日本一を『買える』ようなプロ野球の将来は大丈夫か」という不安感のほうが強かった。

参考サイト

球探(観客動員の推移などのデータを掲載)
ドラフト会議で指名された甲子園の星達(ドラフトに関するデータを掲載)
巨人圧勝 このままでいいのか日本球界(日刊スポーツのコラムより)