結婚式に最もふさわしくない歌

2003/01/26

 結婚式で歌われる歌と言えば、古くは「てんとう虫のサンバ」、最近では「ハッピーサマーウェディング」が定番である。これらの曲は「結婚」を主題にしているので、絶対はずす事はない。
 別に「結婚」を主題にしていなくても、「幸せな恋愛」という事なら間違いはない。言い換えれば、「別れ」とか「失恋」などと言った「不幸な恋愛」を主題にした曲は、結婚式で歌うのはタブーである。逆に言えばギャグのネタになるわけだ。先日立ち読みした漫画では、結婚式でマイクを向けられた主人公がいきなり「二人の恋はー終わったんだーねー」と歌う、というものがあった。
 確かに結婚式に「恋は終わったんだね」もないものだ。しかし、「恋は終わった」のは歌い手であり、新郎新婦ではない。好意的に解釈すれば、「自分たちの恋は終わったが、あなた方はそれと対照的だ」というメッセージと取れなくはない。これは他の失恋・別れの歌でも同様だ。
 では、結婚式に歌うのに最もふさわしくない歌とはいったいどれになるのだろうか。実は長い日本の歌謡史の中には、「究極的に結婚式にふさわしくない曲」というのが存在するのだ。

 今から五年前の1月24日の午後に筆者たちは結婚式を挙げた。夜にレストランでパーティーをやり、三次会みたいな感じでカラオケに行った。来た人数がそこそこいたので、二部屋を使ってのカラオケ大会になった。一応「主役」である筆者たちは、適宜二つの部屋を行き来していた。そして、筆者のいない部屋でその曲は歌われた。
 歌ったのは大学の同期で、10年のつきあいとなる友人である。お互い特撮が好きだという事があり、在学中は彼の部屋でよく秘蔵の昔のビデオを見せてもらった。卒業後も年に1回くらいは飲みに行っているが、カラオケになった時は二人して特撮の歌を歌ったものだった。
 そういう事で彼が長年のつきあいから特撮の歌を歌うのは自然な流れだったと言えよう。しかも特撮の歌には「失恋」も「別れ」も存在しない。したがって結婚式に歌う分にも無難なジャンルとは言える(適しているかどうかは微妙だが)。しかし、その特撮の歌の中で唯一結婚式で歌うのにふさわしくなさすぎる曲があった。そして彼は見事その曲を選んでくれた。
 その曲は「死ね死ね団のテーマ」である。1972年から73年にかけて放映された「レインボーマン」という作品の悪の組織「死ね死ね団」というミもフタもない名前の組織のテーマソングだ。組織の名前と同様、歌詞のほうもミもフタもない内容となっている。
 歌いだしから「死ね」を6連呼。全歌詞中に「死ね」「死んじまえ」という言葉がなんと72回も出現する。ちなみに何に対して「死ね」と言っているかというとそれは「日本人」。「黄色い日本をぶっつぶせ」「日本人はじゃまっけだ」などという言葉が散りばめられている。
 後でその話を本人に確認したら「その場にいないから歌った」との事だった。一応配慮してくれたらしい。しかし、「新郎新婦」がいようといまいと、結婚式の三次会で何も「死ね」を連呼することもないと思う。だいたい、歌っている最中に偶然移動して来られたらどうするつもりだったのだろうか。
 もっとも筆者もその話を知ったときに最初に浮かんだ感情は「そうか、『死ね死ね団のテーマ』って結婚式にふさわしくない曲NO.1だよな。それを歌われたのだから、ある意味貴重な経験をしたと言えるな」というもので、怒りなどの感情は全く浮かばなかった。そしてこうやってその事をネタにしているわけだから、あそこで友人がその曲を歌ったのはある意味間違っていなかったのかもしれない。

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