財布紛失顛末記
2006/10/9
ある週末の朝の事だった。いつもの電車にいつものように乗って会社へ向かう。その時点では、1時間後にとんでもない事が生じるなど、想像すらつかなかった。
いつもの東京メトロ東西線の九段下駅で降り、改札を出る。その瞬間、腰のあたりに妙な違和感があった。あるはずのものがそこにないのだ。それはズボンの右ポケットに入れた財布だった。
長年の習慣で、スーツだろうと私服だろうと、いつも財布は右ポケットに入れている。したがって、他の場所に入れている事はありえない。一応、家に電話をしてみたが、やはり家に忘れた形跡もない。
電車では座っていたので、スリにあったわけではなさそうだ。とりあえず駅事務所に行き、車内捜索を依頼する。しかし、やはり出てこないとのこと。駅員さんには、今日届けられた場合、その駅に一日置かれ、翌日に上野にある忘れ物センターに集められるとのことだった。いずれにせよ、ここで待っても出てこないので、失意の中、会社に向かった。
とりあえず、キャッシュカードとクレジットカードを止めておく。クレジットカードは三種類持っているのだが、こういう時の処理は、大手であれば大手であるほど、紛失時の案内・対応とも効率的・迅速であることを実感した。もちろん、できればそんな事は知りたくなかったが・・・。また、幸い、使われた形跡はないとの返答も貰った。そして警察にも紛失届を出しておいた。そして昼休みにもう一度九段下駅の事務室に行く。期待はしていなかったが、やはり財布は届いていなかった。
あらためて、財布の中に入っていたものを確認する。現金とカード類はもちろんだが、他に住基カードと家の鍵も入っている。住基カードには住所が書いてあるから、その気になれば、拾った人は我が家に入り込む事すらできるわけだ。もちろん、カードと違い、鍵は即座に使用不可にするわけにはいかない。まあ、家の中に財産があるわけでもないが、とにかく最悪の状況を想定せざるをえない。とにかく、落ち着かない一日を過ごした。
翌朝は土曜日なので休みだった。そこで上野駅の忘れ物センターに営業開始後30分くらいして電話をする。しかし、残念ながら財布はなかった。昨日言われた事を冷静に思い出せば、仮に拾われて駅に届けられた場合、翌朝に上野のセンターに届くわけだから、この時間だと届いているわけがない。まあ、一晩たってもまだ平常心ではなかったのだろう。結果論だが、営業時間終了1時間前に再度電話すべきだった。
とにもかくにも、最悪の事態を想定するよりない。そこで、アパートを管理する不動産屋に行って、鍵交換の手続きを取った。そして、翌日はなるべく外出しないで過ごした。
そしていよいよ月曜日、この日に出てこなければ、もう現金は諦めなければならない。そんな中で出勤し、電話をしていると、携帯が鳴った。着信音は嫁さんからメールが入った時の専用のものだ。電話中なので反応するわけにはいかないが、この時間にメールが入るなら・・・と期待した。
そして電話終了後、急いで携帯を確認する。すると、「東京メトロから、財布発見の葉書が来ている」というものだった。このメール一通で、週末の朝から土日にかけて続いた沈んだ気分が一気に晴れたような感じだった。
翌日、上野駅まで財布を取りに行った。拾った人は名乗らずに駅事務所に届けてくれたとの事だった。お礼をしたかった気持ちもあったが、まあ、自分でも仮に拾ったら同じようにするだろうな、とも思った。
さらにその翌日には口座を置いてある銀行の支店まで行ってキャッシュカード再発行の手続きを行うなど、二日ほど昼休みが潰れた。さらに、プロバイダの支払先のカード番号を変更するなどといった、後始末も少なからずあった。結局、鍵交換代など、あわせて1万5千円くらいの出費となってしまった。しかし、何にせよ、現金も戻ってきたわけだし、カード被害などにもあわなかったのだから、運が良かったと言うべきだろう。
といわけで、財布を落とした事はともかく、以下の経過は最善の形に落ち着いた。そして同時にいくつかの教訓を得ることができた。まず、何よりも「財布を落とさないように最善の注意をする」という事である。実はこれまでの間、一度だけ電車を降りるときに財布がスーツのポケットから落ちた事があった。その時はすぐに気づいたのだが、この時点で「ここに入れておくと財布が落ちる可能性がある」という事を認識しておくべきだったのだ。
もうひとつは、財布の中に入れておくものである。改めて見直してみると、不要不急のものを大量に入れていた。現金にせよカードにせよ、明らかに入れすぎだった。もちろん、落とさないに越した事はない。しかし、万が一落とした時の被害を最小限にする努力も必要だ、という事を痛感させられた。
そういう意味ではいい教訓になった「財布のない週末」だった。