大根に助けられた話

 子供の頃、「古典文学全集」にハマっていた頃があった。小学生向きの現代語訳のものだが、源氏物語などはそれでも理解できず、短編集のたぐいを愛読していた。
 その中で今昔物語だったか宇治拾遺物語だったかにやけに印象的な短編があった。(追記・なぜか急に気になって調べたところ、徒然草の第六十八段だった)内容は以下のようなものである

 ある所に、「大根は薬になる」と言って毎日二本ずつ食べていた武士がいた。その武士の館がある晩に襲撃を受けたとき、どこからともなく二人の兵士が来て、助けてくれた。武士が「なぜ助けてくれたのですか?」と尋ねると、二人は「私たちは毎日食べていただいた大根です」と答え、去っていった。

 なんかわけのわからん話だが、その時は理由もわからずただ話の筋だけが心に残った。そのおかげで中学校の古文の試験でこの文章が出て得をした記憶もある。
 さらにそれから何年かたち、ふとこの話を思い出した。そしてついでに当時は思いつきもしなかったツッコミが脳裏に浮かんだ。
それは、「もし、この武士が食人族だった場合も、食べられた人は恩返しをするのだろうか?」という身も蓋もないものだった。
 ついでに、「おそらくこの話は子供に大根を食べさせるために考え出された、『ポパイ』と同じようなものなのだろうな」という事にも気づいた。