4.嘘だらけの「動画配信サイト」

2006/2/6

 現在所属している部署の担当業務の一部に、PC・電話・コピー機などの管理がある。したがって、それに関する業者の売り込み電話はしょっちゅう回ってくる。
 電話屋だとどの系列の会社も判を押したように「○○(NTTを初めとする大手電話会社)の代理店××(本当の社名。この部分はやや早口)です。今度、そちら様の電話料金がお安くなったのでご連絡いたしました」と言ってくる。「電話料金がお安くなるサービスができました」などと言うと売り込みだと分かってすぐ切られるから、こういう口上を習得したのだろうか。しかし、最初の一回くらいはちょっと奇妙に思ったが、何度か聞けば「そうですか。でもそちら様と契約関係はないですよね」と返答するようになった。こうすると相手はすぐ切ってくれる。
 他に、「コピーの紙代が無料になりました」や「光ファイバーを入れませんか?」「IP電話で通話料が安くなります」なんてのもしょっちゅうだ。会社は違っても口上はパターン化されているので、こちらも免疫ができて必要最小限の返答で撃退するようパターン化している。
 というわけで、ある程度そのテの電話には自信があった。しかし、先日受けた売り込み電話は、これまでにない手法が用いられており、従来の撃退方法が通用しなかった。といっても別にその業者の嘘が巧妙でだまされかけたからではない。あからさまな嘘を連発してくるので、どう対処すればいいのか、一瞬困ってしまったからだ。

 その電話が来たのは、ある週末の昼下がりだった。代表電話が鳴っていたので取ると、電話口から、開口一番「そちらさまのサイトを見て電話しました」と言ってきた。しかし、筆者の勤務先のサイトには、電話帳などに載る「代表番号」は掲載しておらず、ダイヤルイン番号しかない。つまり、この業者はサイトに載っていない番号にかけてきたのだ。冒頭から「自分は嘘つきだ」と宣言しているのである。
 続いて、自分の会社名を名乗った。有名玩具メーカーと有名携帯サイト運営会社をくっつけた名前で、その両社の合弁会社だと言ってきた。動画配信サイトを夏に立ち上げる予定で、既に合併球団と提携が決まっているなどと言っている。それはいいのだが、肝心の目的がわからない。配信業を一緒にやりたいのか、コンテンツを提供して欲しいのか、それとも出演依頼をしているのか、といった事を一切話さないのだ。
 いくら何でもそんな事も説明できない人間を、有名企業の合弁会社が雇うとは思えない。ましてや、プロ球団が提携する事などあるわけがない。つまり、会社も実績も信用しようがないのだ。別の意味で面白かったが、こんな相手に時間を割くわけにもいかず、話の途中で遮って、「サイトが出来たら見るから。興味が出たらこちらから電話する」と言って切った。経験上、こう言ったほうが相手が諦める可能性が高いからそう言っただけで、もちろん、電話する気などサラサラない。
 これでこの話が終わったと思ったら、しばらくして、先ほどの人間の上司を名乗る輩から電話がきた。あの応対で、こちらを「見込み客」と認識したのだとしたら、かなりの判断力だと呆れつつ「電話で延々と話されても困るからメールで説明してくれ」と言って、メルアドを言って電話を切った。
 すると、しばらくしたらメールが来た。先ほどの電話では夏になっていたサイト開始日時はなぜか今月末となっている。とはいえ、そんな事には今更驚かない。こちらが唯一興味があったのは、その発信元のメールアドレスだった。
 そのアドレスは「**.co.jp」だった。それをブラウザにコピーして「http://www.**.co.jp/」のサイトを見てみたが、予想通り、自らが名乗った合弁会社とは全然違う名前の会社だった。一応、会社概要を見たが、それらの有名会社の名前など、一切書かれていない。別に驚きもしなかったが、あまりの稚拙さ・粗雑さには呆れるよりなかった。
 メールの読むべきところはこれで十分だったので、添付されていたパワーポイントの「企画書」などには目もくれず、断る旨の返信をした。するとしばらくして諦めたという旨の返信が来たが、相変わらず、その架空の合弁会社を名乗る事はやめていなかった。

 それにしても、最初から最後までよくもここまで嘘で塗り固める事ができたものだ。これでは、万が一電話で騙して会う事ができても、いくらか質疑応答すればボロが出て、商談までこぎつける事はありえないと思うのだが・・・。とにかく、世の中にはすごい嘘つきもいるものだ、と別の意味で感心させられた一件だった。

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