まんが幸福論(長谷川町子 さん)

2004/05/05

掲載・「いじわるばあさん」何巻かの巻末

 ある男の運命を巡って、二人の神様が争うという話。
 その男は、何一つ不自由のない家に生まれたのだが、それを妬んだ意地悪な神様が、その男に悲惨な人生を歩ませようと企む。まず、父親を交通事故死させ、それを見た母親もショック死させる。その後も辛い人生を歩ませた後、最後は乗っていた船が漂流して、絶海の孤島で動物のみを友に孤独に世を去る、という「筋書き」である。余談だが、この神様、後にB.B.の運命を司ったりしたのだろうか。
 ところが、筋書き通り父親を殺そうとしたところ、いきなり父親は気が変わって引き返し、車に轢かれずにすむ。その意地悪な神様の構想に反発した親切な神様が、運命を変えるべく動いたのだ。
 その親切な神様の構想通り、男は幸せな人生を歩む。たまに意地悪な神様に足を引っ張られるが、その都度、善良な神様が修正してくれる。たとえば、意地悪な神様の指示を受けたキューピッドにより、ろくでもない女性と結婚するが、その妻がベストセラー作家になって成功する、という具合だ。
 とはいえ、人間である以上、最大の不幸である死を免れる事はできない。得意そうな意地悪な神様と、残念そうな善良な神様が並んで見る中、男は臨終の時を迎える。そこで最後に話した言葉は、「自分の人生はろくな事がなかった」というものだった。彼の描いていた「幸福な人生」とは、絶海の孤島に漂流して、動物のみを友に一人で一生を終える事だったのだ。つまりは、意地悪な神様の歩ませようとしていた人生が、彼にとっての「幸福」だったわけである。
 短編ながら、「人それぞれの幸福」というものを上手く描いている。また、「他人に『幸福』を押し付けようとする人」に対する皮肉にもなっているのかな、と当時小学生だった筆者は思ったものだった。





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