4.シーマン(現存せず)

 子供の頃、ハンバーガーが嫌いだった。あの味のきついソースと肉のなかのピクルスの食感が特に苦手だった。
 そんなある日、病院の帰りに、親に連れられて「シーマン」という喫茶店に入った。そこの食事のメニューはハンバーガーだけだった。これがファーストフードだったらパスするか別のメニューを頼むところだが、腹が減っていたのに加え、ハンバーガー以外の食べ物がないので、仕方なしに食べることにした。
 そこで出てきたものは、それまで食べてきた「ハンバーガー」とは別のものだった。しつこいソースはかかっておらず、あっさりした味付け、挟まっているレタスもシャキッとしていて美味しい。どこぞの漫画ではないが、「今まで自分が食べさせられていた『ハンバーガー』とは何だったのだろう?と思うほどだった。
 とにかく、これを食べたおかげで、それまでのハンバーガーに抱いていた「ベチャベチャとしつこい」というのが、「さっぱりして深みのある味」に変わった。それ以降もチェーン店のハンバーガーは食べれなかったが、この「シーマン」のハンバーガーは好物の一つとなった。
 その後しばらくして東京に戻った。当然、ハンバーガーを食べることもなくなった。それから数年たち、高校生になってから、春休みを利用して一人で関西に旅行する機会があった。
 数年ぶりの「シーマン」でまたハンバーガーを頼んだ。相変わらずの美味しさで、「やはりチェーン店のハンバーガーとは全然違うな」と思った。
 それからも関西に行くたびにここのハンバーガーを食べていたが、ある時に行ったら、店がつぶれてファミコンショップになっていた。「美味ければいいってもんではないんだよな」ととても寂しい気持ちになった。
 その後も色々なハンバーガーを食べたが、いまだに「シーマン」より美味しいと感じたものはない。