隅田川沿いの「住宅街」

2003/06/23

 夏至に近いある日の夕方、両国から隅田川に沿って歩こうと思った。隅田川の両国近辺は、水面の近くに小奇麗な遊歩道が整備されているのは、毎日の通勤で見ているので確認済みだった。
 19時頃まで暮れない長い夕方にその遊歩道を歩き、水面に反射する夕日や、川を走る屋形船などを見ながら、浅草あたりまで行こう、という企画(?)である。
 両国駅の西口を降り、国技館を左に見ながらしばらくすると、土手の上に川縁に入る階段が見えた。さっそく川縁に下りようと土手に上るが、そこでの風景は想像していたものとはかなり違った。
 土手の上は簡易住宅が立ち並んでいたのだ。かつての「定番」の「ダンボールハウス」ではなく、しっかりした構造で、防水の青いビニールシートがかかっている。窓のようなものまであった。
 川縁に降りても同様の風景だった。中には、キャンプ用のテントまで設置されていた。かつては「ホームレス」というと、住むところのなくなった人が余ったダンボールを寄せ集めて住んでいる、という印象があった。しかし、この風景を見るとそのような印象はない。「家」に対する投資もそこそこされており、計画性みたいなものを感じた。
 また、夏だというのに、かつての「ホームレス街」に漂っていたようなすえたような臭いはなかった。さらに、いくつかの「家」では洗濯物を干していた。目の前の豊富な水を活用しているのだろうか。
 また、二軒ほどの「家」の軒先には猫がつながれていた。ペットを飼うくらいの経済的余裕もある、という事だろう。猫は太ってこそいなかったが、普通に食事はもらっているような感じだった。
 川縁の遊歩道は比較的最近整備されたようで、まだ、タイルなどは綺麗だ。しかし、このような「住宅街」になってしまっては、散歩する人などは皆無だ。枯山水風の小庭園らしきものもあったが、その上にかまわず「家」が建っていた。
 当初は、川沿いに浅草まで行く予定だった。「家」ばかり気になって、川面や屋形船を見る余裕がない。そこで、厩橋のところで散策は切り上げ、春日通りを歩いて御徒町まで出ることにした。当たり前と言えば当たり前だが、夕暮れの下町は普通の生活空間だった。数分歩いたところに、「簡易住宅街」があるとは思えないくらい普通の風景だった。ただやはり、不況のためか、ほとんどのビルには「テナント募集中」の札が貼ってあった。
 現在の日本経済の状態と流れを見る限り、今後もこのような「簡易住宅街」は増えていくのだろう。川辺の散歩をするつもりが、予想外の発見をすることになってしまった夏至の夕暮れだった。