伊予鉄道の鉄道線は、「市内電車」と呼ばれる軌道線と、「郊外電車」と呼ばれる中距離鉄道線の二種類がある。ともに、中心となるのは「松山市駅」で、「郊外電車」はそこを起点に三方に路線が伸びている。高浜駅を終点とするのが高浜線で、横河原駅を終点とするのが横河原線、そして松山市の隣の伊予市にある郡中港駅を終点とする郡中線、と非常に分かりやすい名付け方だ。
そのうちの郡中線に乗る機会があった。松山市駅の改札を通ると、三路線の発車案内がそれぞれ書かれている。郡中線は高浜線と同じ45分発で、横河原線のみ51分発となっていた。
かつては、この三つの線はそれぞれ松山市駅を起終点としており、日中は毎時0分・15分・30分・45分に、三方への列車が同時に出発していたそうだ。しかし、現在は高浜線と横河原線をつなげて一路線として運用しているため、この「三路線同時発車」はなくなった。しかし、今でも日中は郡中線と高浜線は同じ時刻に発車する。
ホームにはかつて京王電鉄で使われていた電車が止まっていた。郡中線ですれちがう車両を見る限りだと、この車両と、比較的最近導入された伊予鉄道製の新車が半々の比率で走っている感じだった。
定刻になると、向かいのホームの高浜線と同時にドアが閉まり、発車した。しかし、同時に走るのはほんの一瞬で、駅の構内で二つの路線は分かれる。そしてちょっと進んですぐ次の土橋駅に着いた。中心部にある松山市駅とさほど離れていないはずだが、なんとなくローカルな雰囲気があった。
その土橋駅を過ぎると、JR予讃線が上をまたいだ。鉄道本などによく書かれているが、JRが上をまたぐ、という事は、国鉄よりも先にこの伊予鉄道のほうが開通していた、という事を意味している。そして、線路は道路に沿いながら、田んぼと住宅が半々、といいった風情の松山市郊外を走る。途中、「余戸(ようご)」という難読駅名があった。駅の近くには、マンションの案内なども出ている。「マンション余戸、分譲中」などという捨て看板を見ると、なんか不思議な感じだ。
それはともかく、電車はトコトコと郡中に向かって走る。4駅に1駅くらいの割で交換可能の施設があり、対向車とすれ違う。また、交換設備の外された跡のある駅もあった。かつては貨物輸送などで使われていたのだろうか。
風景はあまり変わらないが、途中、大きな川を渡ったら、駅の広告に出てくる住所が「松山市」から「松前(まさき)郡」に変わった。さらにしばらくすると、今度はその住所が「伊予市」に変わり、ほどなく郡中駅に着いた。
「郡中駅」と「郡中港駅」という関係から、この「郡中」が市街の中心かと思っていたが、そのような雰囲気はない。そして、郡中駅を出てしばらくしたら、終点の郡中港駅に着いた。名前からして、駅を出たところに港があるのでは、と思っていたが、そのような事はなく、普通の市街地の中の終点だった。駅のすぐ前にあるバス停には「郡中」とだけ書かれていた。
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帰りは、同じ伊予市と松山を結ぶJR予讃線を使おうと思っていた。郡中港駅と伊予市駅がさほど離れていない事は何となく知っていたが、実際にどのくらい離れているか分からない。とりあえず、地図でも見て調べるか、と思って地図を探そうとあたりを見回したら、そこに伊予市駅の駅舎が見えた。
二車線の道路に隔てられてはいるが、ほぼ隣接しているようなものだ。「郡中港」と「伊予市」というかなり違うものを意味しているはずの駅がこれほど近い、というのには驚かされた。
道を渡って伊予市駅に入る。出札口には人がおらず、代わりに窓口営業時間を示す札が出ていた。やけにきめ細かい営業時間である。
時刻表を見たら、次の松山行きまで7分ほど余裕があったので、ちょっと駅前をぶらついた後、切符を買って電車に乗った。車両は7000系という新しい電車の単行で、ワンマン運転だ。こちらは、特急も走るような規格の高い線路なので、直線ではかなりの速度が出る。場所によっては、時速100kmくらい出ているところもあった。その上、駅の数も郡中線の半分以下だ。というわけで、所要時間は郡中線の23分に対し、予讃線は14分だった。
ほとんど同じ区間ながら、車窓の雰囲気も電車の走り具合も全然違うのが興味深かった、松山市−伊予市間の「乗り比べ」だった。