片道一車線の幹線バス

2002/09/14

 東京都に中野区という区がある。中心駅はJR中央線の中野駅で、この駅前に区役所もある。普通に考えれば「中野という町があるから中野区なんだな」と思われるが、区の歴史の本なんかを読むと、微妙に違う。
 かつてこのあたりには「野方町」と「中野町」があった。それが合併して区になるため、二つの町で協議して名前を決めることになった。そこで「中野」の「中」と「野方」の「野」を取って「中野区」となった。野方町の人にとっては「なめとるのか!」と言いたくなるような話だが、「野方町の住民は砂糖一つ買うにも中野に出なければならない」(中野町の主張)というような「経済格差」があったこともあり、実質的には中野町の完全勝利となってしまったわけである。

 そういう歴史的経緯もあるのか、野方と中野駅を結ぶ関東バスの路線の系統番号は「中01」というエースナンバー(?)を持ち、その番号にふさわしい利用客数と運転本数を誇っている。朝ラッシュ時などは4分間隔、日中でも6分間隔だから、ヘタな都市新バス(都営バスで特に力を入れている幹線)より本数は多い。
 このバスの起点は西武新宿線の野方駅から歩いて3分くらいの所にあるが、「野方駅前」でも「野方駅入口」でもなく、純粋な「野方」である。バス停の前には「野方WIZ」という高層建築物があり、そこには劇場などとともに中野区の支所も入っている。かつてはこの地に「野方町役場」があったそうだ。今でも「野方の真のターミナルは駅ではなくこのバス停だ」という感じの風格がある。
 しかしながら、「野方」を出るとバスが通る道は一車線の一方通行道路だ。ちょっとした生活道路という感じで、バス通りという感じではない。というか、バスが通れるようには見えない広さだ。
 そのような狭い道をバスは走る。道の両端を歩行者が歩いているとスピードを落とす、と言えば、その狭さがわかってもらえると思う。そのような道を日中6分間隔でバスが走るのだ。この道の途中にはバス停が4つもある。野方・中野駅を含め、バス停は9つだから、全路線のほぼ半分にあたる区間である。
 一方通行を抜けると、片道一車線・計二車線の道になって中野駅まで行く。なお、帰りは一方通行の道と400mほど離れて並行に走っている片側二車線の「環七」を通って野方に戻る。
 片側一車線の道を通るバス自体はいくらでもあるだろうが、これだけの運転本数があり、しかも片道経路の半分を占める、というのはここくらいなものではなかろうか。筆者は野方の生まれなので、物心のつく前からこのバスに乗り続けていた。したがって、当時はなんとも思わなかったが、その後いろいろなバス路線に乗り、久々に故郷の路線に乗ったところ、その道の狭さに改めて驚いてしまったものだった。
 この地域のバス路線や道路の状況は、筆者が生まれた33年前とほとんど変わっていない。今後も再開発計画はなかなか起きそうにない地区なので、今後もずっとこの狭い道をバスが走り続けていることだろう。