あしたもゲンキ!(丹沢恵 さん)

2002/10/06

掲載・1990年代のまんがライフオリジナル
 超絶的な方向音痴で外見・服装とも高校生にしか見えない25歳のOLを中心とした会社モノの四コマ漫画。
 他のメインキャラも外見・趣味・嗜好とも30代後半にしか見えない22歳の新入社員に、飲む・打つとも超人的な年齢不詳の先輩女性社員、甘味王でパソコンをはじめあらゆるものに造詣が深い(=オタクな)中堅社員、とそれぞれ個性が強い。
 ヒロインの方向音痴を軸にネタが進んでいく。それに個性的な職場の仲間がからんで、面白い話を作っていく。ヒロインは、行きなれた道でも雪が降っただけでわからなくなって迷い、先輩女子社員はその迷いぶりを対象に賭けをする。新入社員は電車ガード下に行きつけの飲み屋を持ち、甘味王の社員は手作りのホールケーキを会社に持ってくる。
 そのように漫画そのものも面白いのだが、単行本を通して読むと。1990年代の生活様式の変遷を見ることができ、漫画そのものと別に楽しむことができる。連載初期にポケベルを持たされていたヒロインは、時が進むにつれて携帯を持つようになった。1990年代の時の流れを感じて面白い。もうしばらく続いていたら、ヒロインはGPS付き携帯で会社からナビゲートされていたに違いない。また、パソコン好きな社員は、当初はパソ通で情報収集をし、珍しい存在として描かれていた。それがだんだんとWEBが浸透し、ついには家電すらまともに扱えないヒロインの母親までもがメールを始める。このあたりも時の流れを感じて興味深い。

 ところで、年の割には老けている新入社員は、ヒロインの母親に電気のブレーカーが落ちたのがきっかけでヒロインの家に呼ばれ、それで気に入られる。連載の間、ずっと母親は彼を婿にしようと行動するのだが、肝心の彼とヒロインの間に、ラブコメらしい話は一切起きない。そして、連載最終回も、いつも通りのほのぼのとした日常を描いて終了する。
 ところが、単行本最終巻では、その「最終回」の次のページでいきなり母親が彼に「結婚式の日取りはいつにする?」と唐突に尋ねる事からで始まる「書き下ろし」がついている。そしてそのまま二人はめでたく結婚して「グランドフィナーレ」となる。雑誌だけ読んだ時と単行本を買った時で2種類の「最終回」を楽しめる、という仕組みになっているのだ。「ほのぼの四コマ」というジャンルではなかなか凝った趣向だと思った。
 ちょっとイライラしている時や何となく調子が出ないときに読むと気が楽になる「癒し系」の漫画と言えると思う。竹書房から単行本が5冊出ているので、興味のある人は買ってみてはいかがだろうか。




「心に残った名作」

「漫画資料室」に戻る

トップページに戻る