あゝ!たてじま人生(ピーマン 氏)

2003/09/29

掲載・1980年代半ばのデイリースポーツ
 デイリースポーツというスポーツ新聞がある。神戸新聞の系列という事もあり、首都圏版でもタイガース中心の紙面構成をする、というのが最大の特徴だ。どのくらいタイガース中心かを示すために一例を挙げる。
 数年前の冬にとある有名な女性に懐妊説が流れた事があった。スポーツとは関係ないが、各スポーツ紙はそれを一面で報じた。しかし、その日のデイリースポーツの一面は、「タイガースの新外国人のタラスコ選手は、チャンピオンシップシリーズでフェンス際でジャンプして飛球を取ろうとしたら、観客に取られたという『実績』がある」というものだった(参考サイト)。
 言うまでもなく、今年のような「ブーム」の年とは違い、当時のタイガースは「よくて5位」という球団だった。そこに契約したばかりの選手の、本人の能力と関係のない「実績」をそのような日に一面にするほどの「タイガース寄り」なのである。

 話がややずれたが、それだけタイガースびいきのスポーツ新聞に掲載されていたのが、本作である。したがって、ネタの大半はタイガースになる。また、作者が徳島出身で関西在住という事なだけあり、基本的な会話は全て関西弁で行われる。それゆえのネタとして代表的なものに以下のようなものがある。
 読売の以前アイドル的人気があった選手が、「なんてったてアイドル」と歌っているが、ファンはすでにもっと若い選手のところに集まる。それを見た同僚選手が「なんてったって飽いとる」と慰めるというもののだ。これなどは、関西圏で生まれ育たなければ一生思いつかないネタだろう。
 また、ネタにはするものの、タイガースの選手には愛情が感じられた、一方、読売の選手にたいしては、かなりの反感が伝わってくる内容だった。このあたり、いかにもデイリースポーツ向けの漫画と言えるだろう。
 また、選手ネタのみならず、作者自身を出演させての「タイガースファンネタ」も面白かった。1985年シーズン初めの「どうせ今年も」というあたりはもちろん、勝ちだした後の「嬉しい。でもタイガースだから・・・」という心理をうまく描いていて好感が持てた。また、マナーの悪い「ファン」や「にわかファン」には常に厳しい視点で描いているのもよかった。
 純粋に技術だけを見れば、ネタ作りなどに粗い部分はあった。とはいえ、デイリーの編集方針にぴったりあった作品と言えるだろう。そして、1985年のタイガースの優勝によるブームのおかげで、単行本を出す事もできた。
 しかし、理由はわからないが、数年後に連載は打ち切られた。その後も、一時期週刊誌で見かけたが、それも現在は終わっているようで、ネットで検索してもこの作者の名前を見ることはない。
 この漫画の後任として、現在のデイリーに掲載されている四コマは「目を通した次の瞬間に忘れてしまう」というほど味のない漫画だ。そういう意味でもこの作品が惜しまれてならない。




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