Give!Me(くれくれ)タマちゃん!

 戦争で両親を失った少女「おたま」が、兄とはぐれ、なぜかコールドスリープしてしまい、1989年の日本に、当時の姿のままよみがえる、という筋立ての話。
 前半は、その「おたま」の「敗戦直後の感覚で現代世界を生きる」というドタバタがメインとなっている。
 それに、彼女を引き取り、生き別れの兄と勘違い(?)された雨森還という少年、さらにはそのクラスメートで大財閥の跡取り娘で、典型的な傲慢キャラである「佐渡金山もり子」、その執事(?)の変態キャラの貞吉によるドタバタギャグが展開される。
 ただ、そんな中、還という少年の初恋の少女「イライザ」が、実は「もり子」である、という設定があった。さらに、彼女はそれを知って還に恋をしているが、その「イライザ」という正体を明かせない、という事情がある。
 そのような含みはあるものの、基本的にはドタバタギャグ漫画だった。

 ところが、後半に、もり子の養父である、「佐渡金山財閥の総帥」という老人が出てきてから、話の流れが変わる。
 相変わらずのドタバタは繰り広げられるのだが、その軸に「総帥が、生き別れの妹そっくりである、おたまに、金に糸目をつけずに大盤振る舞いをする」という要素が加わるのだ。
 もちろん、冒頭にあるように、二人は実の兄妹である。
 そして、最後には、総帥が不治の病に倒れ、コールドスリープし、数十年後の未来で、脳移植みたいな形で、おたまの数歳年上の姿で蘇る。そのような形で、兄妹が再会する、という形で話が終わる。
 また、その際に、もり子も「イライザ」として、還に「再会」できる。最終回で、二人は結婚し、子どももいた。

 話の九割以上を占めるドタバタ部分と、その根底に流れる、総帥と、もり子の寂しさの描写の対比が、強く印象に残った。
 もちろん、ドタバタギャグだけを見ても、十二分に面白い。特に、メインキャラの中で一人シリアスな設定と無縁の「貞吉」が全編通して見せる奇行は本当に笑える。
 また、雨森家にお金がない、という話が前半の基本設定としてある。それが問題になった時、普段マッドサイエンティストみたいな事をやっている父親が「お父さんには奥の手があるんだ」と胸を張る。
 皆が驚く中、父親は「お父さんは、ちゃんと就職して働くよ!」と宣言するのだ。この衝撃(?)のオチは、強く印象に残っている。
 他にも、随所に独特のノリによるギャグがあった。普通に笑えるギャグもあったが、「戦災孤児」が基点の話なだけに「貧しさ」「飢え」に関するものも少なからずあった。
 その中で、「つまりこの『金持ち』と『それ以外』の間にはベルリンの壁つーかアレです…はぁ」という台詞があった。
 四半世紀前に書かれた台詞であるが、現在、その「ベルリンの壁」はより一層高くなっている。
 そのような深い内容の事を、作者独特の言い回しで述べていたのも印象深い。

 なお、単行本の方は絶版となっているが、現在、Jコミにて、無料公開されている。