Pの悲劇(高橋留美子先生)

2005/02/10

掲載・1991年のビッグコミックオリジナル

 ペット禁止の団地に暮らすある一家が、父親の仕事の都合で、期間限定でペンギンを飼う事になる。それにまつわる話を軸に、「ペット禁止の団地でペットを飼う事」という問題を描いている。
 そのペンギンを飼うはめになった家の主婦の視点で物語が展開するため、彼女が主役のように見える。しかし、実質的な主役は、その下の家に住み、隠れてペットを飼う家の摘発に力を入れている「筧さん」だと思われる。
 この筧さん、常に無表情。そして、ペットを飼っている家を容赦なく糾弾します。相手がどんなに怒っても意に介さない。
 一見、動物嫌いの冷血漢みたいに思える。しかし、よく読んでみると、彼女は隠れて動物を飼っている人には厳しい態度を取るが、動物そのものには厳しい事を言わない。
 そして、彼女の息子の話から、彼女はこの団地に来る前は犬を可愛がっていて、転居のため仕方なく分かれたときは心から悲しんだ、という話を聞く。つまり、彼女が嫌っていたのは動物ではなく、「隠れて飼う事によって動物に不自由な思いをさせる」という事だったのだ。
 結局、ペンギンを預かっていた事は返却する前日にバレてしまう。しかし、筧さんはそれについて何も言わなかった。そして数日後、一緒に水族館に行った時にその話が出たとき彼女は「次の日もペンギンがいたら告発していました」とやはり無表情に言う。そして、続いて水槽のなかにいるペンギンに「ちっちっちっ」と声をかけ、それを見ていた主婦が「本当はさわりたかったんだ」と思って話は終わる。

 この筧さん、いわゆる「美人」ではない。そして無表情に近く、心の動きもほとんど描かれない。しかしながら、その強い意志と動物に対する愛情の深さが非常に上手く描かれている。高橋先生の描く女性キャラというと、その外見の美しさだけでとらえられる事が少なくない。しかし、この筧さんのようなキャラを見ると、美しい容姿を描く画力と同じくらいに、人物の内面を描く能力の素晴らしさもずば抜けている事を改めて認識させられる。

「心に残った名作ーストーリー漫画」へ

「漫画資料室」に戻る

トップページに戻る