涙のバレーボール(塀内真人氏)

1999/10/16

80年代半ばの週刊少年マガジン増刊
 マガジンで現在大長編サッカー漫画を描いている作者の前々作くらいにあたる作品。
 舞台はいわゆる普通の学校である江陵高校のバレー部。そこの主力選手である小柴光秀が、かつて中学バレーの名選手だったが、ケガがきっかけでバレーから離れてしまった河合瞬の存在を知り、スカウトした事から話は始まる。
 それまでのバレー部は、キャプテンの関守功二(セッター)と小柴(レシーブが得意)はそこそこの実力があったものの、県大会1回戦を勝てるかどうかの実力しかなかった。しかし、河合の加入がきっかけで、皆に意欲が出て、最後は県下最強の桐嶺商業に勝ってインターハイ出場を決める、というのが大筋である。
 「弱いチームがあるきっかけで強くなる」というのはスポーツ漫画の王道的ストーリーである。しかし、そのテの話のほとんどは、「なぜそれまで勝てなかったか」と「なぜ主人公(たち)の加入によって勝てるようになったのか」をきちんと描けていない。しかし、この話は、チームの戦力・選手たちのモチベーションの変化がわかりやすく表現されている。そのため、チームが強くなっていく過程を、違和感なく読むことができるのだ。
 そしてこの話が心に残った最大の理由は、県大会決勝の桐嶺商業戦。関守は、家庭の事情で転校する事が決まり、河合は全日本チーム入りが決まったため、この試合が現在のメンバーでの最後の試合となる。
 そのような事情プラスこれまでの勢いで、選手たちは実力以上のものを出し、県下最強チームに善戦する。しかし、第一セットを取られる。このあたりを読んでいて、筆者は本当に試合を観戦しているような気がした。
 どちらが勝つかはもちろん、どのような流れになるかも解らない。ボール・選手たちの動き一つ一つを食い入るように「観戦」した。
 第二セットで追いつき、最終セットの終盤、13対12から、相手のエースのスパイクサーブが決まってマッチポイントになる。次のスパイクサーブは小柴がなんとか当てるが、大きく外れる。このあたり、読んでいた筆者も「これまでか?」と思った。しかしそれを河合がダイビングして拾い、なんとか持ちこたえる。そして、その流れで逆転勝ちするのだが、最後の最後まで、筆者も「観戦者」として、試合に引き込まれていた。
 スポーツ漫画は「名作」と呼ばれるものから、ジャンプの10週打ち切りものまで数多く読んだが、ここまで作中の試合に引き込まれた作品は他にはない。なお、同じ作者が登山を描いた「俺たちの頂」も本作と同じくらい面白い。


「心に残った名作−ストーリー漫画」

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