外道の書(井田辰彦《イダタツヒコ》氏)

1999/08/16

90年代初頭のヤングマガジン
 不思議な味を出していたホラー漫画。はっきり言って、絵も話の構成も雑だが、作品そのものが持つ力に心を惹きつけられた。
 大学受験を控えたヒロインが上京して、小学生用塾の講師の兄の家にしばらく泊まる所から話は始まる。ある日、帰宅するとその兄の顔に字が浮き出て、さらに兄の体が分解し、本になってしまうのである。そしてその本を塾の生徒である少年が持ち去るのである。
 目撃者となったヒロインを、かつて少年によって本にされ、部下となった第三の書と名乗る医者が、超能力を駆使して襲う。それを助けたのは、少年の術をかけられたものの、完全に本にはならなかった第一の書だった。
 本たちに「マスター」と呼ばれる少年は、特殊な条件にある人間に呪いをかけ、塾の少女たちを生贄にする事によって本にしていたのだ。本を12冊集めると、何かの願いがかなうらしい。
 その企みを阻止し、兄を取り戻そうとするヒロインは第一の書とともに、少年(マスター)とその部下として働く本たちに闘いを繰り広げる。そして、ヒロインの兄も戦線に参加する。この兄も少年(マスター)の手下として働くのだが、記憶や話し方などは以前のままなのだ。それでありながら、少年(マスター)のために同僚を平気で殺し、ヒロインも殺そうとする。その描写にまず驚いた。
 その後捕らえられたヒロインに、少年(マスター)は本を集める目的を語る。それは「絶対に矛盾のない究極の知識・真理」を得る、というものだった。さらに、自分は転生を重ね、800年生きている事や前世はヒトラーだった事を語る。
 結局、ヒロインの元恋人も本にされ、さらに第一の書も、ヒロインの血によって術が完成してしまい、本になってしまう。

 そこで最終回となるのだが、すべての本を集め、召還された「巨大な眼」に「究極の真理」を授けられた少年(マスター)は、その知識を受けきれず、自殺してしまう。その場に、闘いによって怪我をしていたヒロインが通りかかる。驚きながらも意を決し、少年(マスター)の部屋に入るヒロイン。その彼女に「巨大な眼」が、少年(マスター)の死とその理由を告げ、さらにこう語りかける。
「お前、新しいマスターになる気はないか? 知恵と力が欲しくはないか? 今ならお前がマスターになれる(中略)地球すら自由にできる力が欲しくはないか?どうだ・・・?」
 突然の事に、驚き、戸惑うヒロイン。そのまま場面は変わり、生贄とされた少女の捜索を担当する刑事たちの会話になる。
 そして、その次のページでは、部屋に12冊の本を散らばし、「…さてと、何して遊ぼーかな…」と、ヒロインが微笑んで、物語は終わる。
 最後のどんでん返しとヒロインの心理描写が特に心に残っている話である。



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