汚れた弾丸(三枝義浩氏)

2004/02/26

掲載・2003年の週刊少年マガジン
 イラク戦争の現場について、「劣化ウラン弾」に特に重点をあてて報告した作品。1998年から、湾岸戦争の後遺症として「劣化ウラン禍」を写真に収めてきた、カメラマンの森住卓さんの報告をもとに作られている。
 劣化ウラン弾は、それ自体が強力な殺人兵器として、戦車もろともその中の人間を殺傷する威力を持つ兵器である。しかし、劣化ウラン弾の殺人能力はそれにとどまらない。弾頭としてつかわれている「劣化ウラン」は、本来の役目を終えた後、煙霧状になって空中に飛散し、それを吸った人間やその子供に障害をおよぼすのだ。そして、それが癌や白血病を引き起こしている。
 アメリカや日本の政府は「劣化ウラン弾が人体に悪影響をおよぼすなどと立証はされていない」と宣伝している。それに対し、本作品では湾岸戦争前にイラクのバスラ市のガンによる死亡者が34人だったのが、1996年に219人、2000年には586人に達したというデータを提示している。また、森住氏のサイトには湾岸戦争後のイラクで癌になった少年少女の写真が掲載されている。
 今更言うまでもないことだが、日本のマスコミではこのような「事実」より、「フセインがアルカイダと関係があったかもしれない」などという情報のほうが大々的に報じられていたわけである。
 ところで、筆者がこの作品を読んで一番驚いたのは、劣化ウラン弾の「原料」についての記述だった。よく原子力発電所は「トイレのないマンション」と批判される。それは、原発で燃料にするウランを濃縮した際の残りカスである「放射性廃棄物」は焼却・分解ができないので、そのままドラム缶に詰めて保管するしかないところから来ている。その始末に困った猛毒の廃棄物の「再利用策」としてアメリカの軍事産業は「劣化ウラン弾」を開発したとの事だった。
 なるほど、埋立地などに捨ててしまえば問題になるものでも、「敵国」にばら撒けば自国の環境団体に批判されたりしない。しかも、その際に「兵器」として戦車を壊せるのだから、まさに「一粒で二度美味しい」活用法といえるだろう。もちろん、ばら撒かれた国の人々の健康などは知った事ではないわけだ。
 この部分を読んだとき、これぞ「悪魔の所業」だと思った。人間と言うのはどこまでも残虐になれるものなのだ、と深く感じさせられた。

 なお、表題作のほかに、アフガニスタンで活動している医者の中村哲さんの活動を報じた「アフガニスタンで起こったこと」も収録されている。こちらも、興味深い事が多数描かれていた。




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