ゴルゴ13

掲載・1968年よりビッグコミックにて連載中

2007/5/13

 漫画史上初の「百巻越え」を果たし、現在も連載が続いている作品。主人公のゴルゴ13は超人的能力を誇るゴルゴ13が、要人暗殺からしょうもない依頼まで黙々とこなす。
 第1話では、娼館でブリーフ一丁で窓辺に立ち、後ろから近寄った娼婦を、得意の(?)「後ろから近づかれると反射的に殴りかかる」をやらかして逮捕されるなど、間抜けな一面もあった。しかし、話が進むにつれて銃の腕以外も段々と人間離れしていった。
 とにかく、ゴルゴが依頼を受ければ、99%以上の確率で狙撃は成功するのだ。たまにその過程で苦労することはあっても、最後には勝利をする以上、狙撃の成功・失敗は興味の対象になりえない。というわけで、話が進むにつれ、「ゴルゴがどうやって狙撃をするか」よりも、その依頼にまつわる人間模様などのほうが話の主になっていった。
 そして中には、かなり奇妙な狙撃の舞台や依頼などもあった。筆者的にはゴルゴが神業的な狙撃を成功したり、激しく動く国際情勢の中でゴルゴが仕事をする話より、そのような奇妙な話のほうが、心に残っている。今回は、そのような話をいくつか紹介したい。

聖者からの依頼

 フィリピンの教会で、ゴルゴは神父と修道女に、かつて修道女の親を殺した強盗団の首領殺害を依頼される。神父はこの地で聖者と呼ばれるほどに、住民に尽くしている男である。ところが、ゴルゴが依頼を受けると修道女は複雑な表情をし、それを神父がなだめる、という奇妙な風景が見られた。
 ゴルゴは首領のいる村に潜入し、わざと捕らえられて、首領の髭面を確認した後に、そのアジトを破壊して脱出する。その際に、近隣に住む小悪党じいさんの娘とねんごろになったり、そのじいさんがくすねたサラシ粉を爆発させたりして、街に戻る。
 そして出現した首領と戦い、当然ながら射殺する。ところがその首領の髭を取ると、そこには依頼人の聖者の顔が出てくる。
 実はこの聖者は、確かにかつては極悪人だったが、身を隠すためにニセ神父になり、教会で住民のために働くフリをしているうちに、心まで神父になってしまった。そして過去の自分の悪行を許せなくなり、自らを殺させる事により、罪を償いたくなったため、そのような行動に及んだ、というのが真相だった、というオチ。
 この聖者、どうせ死を選ぶにせよ、わざわざ大金を払ってゴルゴを雇う必要があるのだろうか。そんな金があるなら、目覚めた聖なる心に従い、住民のために使えばいいと思うのだが・・・。自殺が嫌なのは分かるが、地元の安価な暗殺業者を雇っても変わらないはずだと強く思った話である。
 あと、そのような「自殺」につきあわされて、サラシ粉を爆破された小悪党のじいさんが哀れでならない話でもあった。

総武快速線殺人事件(仮題)

 総武線沿線に建つマンションに住む華僑の大物の狙撃を依頼されたゴルゴが、西村京太郎氏もびっくりの、鉄道ヲタネタを使って仕事を果たす話。
 ゴルゴは成田空港に降り立ち、そこから電車で東京に向かう。なぜかゴルゴ来日情報は日本警察に入っており、ゴルゴが乗ると思われた成田エクスプレスを警察はマークする。しかしゴルゴが乗ったのは、一つ後のエアポート快速のグリーン車二階席だった。そして依頼者の協力もあって、周りの乗客には映画の撮影と偽り、ゴルゴは列車がマンションに近づいた時に銃をグリーン車の天窓に向けて放ち、仕事を遂行する。
 そして、東京駅に着いた成田エクスプレスに警察がなだれ込むが、その頃ゴルゴは悠々と、鉄道を乗り継いで羽田空港国際線ターミナルから日本を後にしていた、というオチになっている。
 つまり、ゴルゴは高所にいる標的を車内から撃つため、天窓のある総武線快速二階グリーン車を選んだわけだ。さすがは世界の頂点に立つスナイパー、総武快速線から狙撃する際、どの車両が最適なのかも調査済なのか、と感心(?)してしまった。
 あと、総武快速に限らず、首都圏のJRはよく遅れる。この狙撃は、標的の家に潜り込んだ依頼者の手下が、エアポート快速の通る時刻にベランダに標的を立たせた事によって成立したわけだ。とはいえ、いくら何でも、ずっとベランダに立たせるわけにはいかない。もしダイヤの乱れが発生していたら、この仕事は、ゴルゴの数少ない失敗例になったのだろうか、などとも思ったローカル色豊かな話だった。

庭師の復讐(仮題)

 ホワイトハウスで長年庭師をやり、ホワイトハウスに愛着を持っていた男がいた。そして彼はその神聖なホワイトハウス内で行われたクリントン大統領の不倫行為が許せなかった。そのため、ゴルゴに、歴代大統領の記念品の類でクリントン大統領の分だけを狙撃して貰い、ホワイトハウスを穢した報いを与える、という話。
 いくら、アメリカ大統領に関する「仕事」とはいえ、大金使って頼む方も頼む方だし、受ける方も受ける方だ、と強く思わされた話。

命を賭したおっかけ

 ある資産家の娘は、なぜかゴルゴに強い愛情を持っていた。そしてゴルゴを調べ上げ、彼が抱くのは「仕事場」近くで働く娼婦だけ、という事を知る。そこで想いを遂げるために彼女は、わざわざボーイフレンドと「練習」までして、ゴルゴの仕事先近くで「立ちんぼ」になり、念願を叶える。しかし、悦びのあまり、「オー、ゴルゴ」と口走ってしまい、何らかの関係者と勘違いしたゴルゴに殺される。
 いくらハマっても、そこまでやるこたないだろう、と思いつつも、彼女の情熱と情報収集能力には頭が下がる思いをさせられた。あと、長年やっているから仕方ないとはいえ、ゴルゴは情報漏れすぎだと思った話でもある。

 他にもいろいろ印象に残る話はあるが、このへんで。とにかく、さいとうプロの存続する限り、ゴルゴおよびその周囲の人々には色々と楽しませてもらいたいものだ。