げんしけん
2010/7/11
「ヲタク漫画」の元祖とも言える作品である。大学に入ってヲタク的な趣味を楽しもうとした主人公・笹原が、同好の士が集まるサークル「現代視覚文化研究会(略称・現視研)に入会する。
そして、秋葉原・同人誌即売会・エロゲーとヲタクのレベルを「スキルアップ」していき、進級して「現視研」の会長になってコミケで同人誌をプロデュースし、完売させる。
さらに、「現視研」の後輩である荻上千佳を彼女にし、卒業後はフリーの編集者になる、という形で終わる、「ヲタクキャンパスライフ漫画」である。
現視研の他の会員も、それぞれ自分の世界を持つヲタクである。ただ、一人だけ、ヲタクの彼氏を追うような形で入った一般女性・春日部咲がおり、ちょっとしたアクセントになっていた。
もっとも、その後は帰国子女のため9月入学という設定で、コスプレ好き腐女子の大野加奈子が連載半年後に加わり、翌年には先述した荻上が入会するなど、話が進むにつれ、春日部の存在感は下がっていった。
さて、話のほうだが、前半はひたすら「ヲタク道を進んでいく主人公と現視研会員たち」という感じの筋立てだ。しかし、後半は笹原と荻上の恋愛が軸になっていった。もちろん、その恋愛でも「ヲタク」が重要な要素にはなるのだが、前半のヲタク度が濃厚だっただけに、普通の恋愛漫画に推移した、という印象は否めない。
逆に言えば、前半部分はそれだけ濃い話だった。たとえば、現視研で海水浴に行く話がある。ところが、彼らは海に行ってもナンパはもちろん、ロクに泳ぎすらしない。ビーチパラソルの下でひたすら「ガンダムしりとり」をやっているのだ。
しかも、その「しりとり」の題材の一つに「セイラさんのお守り」というネタがある。これは、アニメではなく、富野由悠季氏による小説版で使われたネタである。当然ながら、アニメよりは知名度は大幅に低い。
若い男たちが、そのような事を、夏の浜辺で熱く語り合うのだ。さらに、帰りの自動車では、運転手である久我山の眠気防止のために、春日部の彼氏である高坂がひたすらエロゲー評論を語り続ける、というオチまでついている。
他にも、部室でひたすらガンプラを作り続ける話も印象深い。また、「コミケに出すエロ同人誌制作」のために会員達が対立したり一丸になる、という展開も、印象に残っている。
まあ、ひたすらそんな濃さばかり描いてばかりでは、話の流れ、というものは描けない。それゆえ、後半は主人公と荻上の恋愛が主題になったのだろう。
もちろん、恋愛描写の中にもヲタク的要素が重要な位置づけになってはいる。とはいえ、濃さとか熱さという点においては、前半に比べて弱くなってしまったのは否めない。
作品の作り方としては正しいとは思う。ただ、できることなら、最後まで前半部の濃度を維持してほしかった、というのが率直な感想ではある。