浦和美園

 今年(2001年)春に埼玉高速鉄道という路線が開業した。営団地下鉄南北線の終点である赤羽岩渕から埼玉県川口市に入り、鳩ケ谷市を縦断して再び川口市に戻ったあとにさいたま市に入り、終点の「浦和美園」駅に着く。この駅は来年のワールドカップ会場の一つである埼玉スタジアムの最寄駅である。
 先日、午前中だけ仕事をし、夕方に南北線沿線に用事がある、というスケジュールがあった。したがって昼下がりの数時間は空白だ。その時ふと「ならば浦和美園まで行って埼玉高速鉄道に乗り、そのまま南北線に入ればちょうどいい時間に目的地につきそうだ」という思いがひらめいた。
 当初は、埼京線から武蔵野線に乗り換え、埼玉高速鉄道との接続駅である東川口で乗り換え、浦和美園まで行ってまた戻ってくる、という計画だった。しかし、埼京線の中でふと「同じ区間を往復するのはなんとなく面白くない。『浦和美園』と名乗るのだから、浦和からバスが出ているだろう。それで行ったほうが面白そうだ」という考えが浮かんだ。
 浦和駅で下車すると、出口は二つあった。浦和美園は東側にあるから、東口から出てみた。そこで見たのは、県庁所在地駅とは思えない駅前広場だった。イメージとしては、「普通列車しか止まらない都区内の私鉄の駅」といったところか。駅前のバス停からは3系統しか出ていないし、高いビルもない。好意的に言えば「県庁所在地にもかかわらず、気取らず庶民的な駅前」となるのだろうか。
 いずれにせよ、浦和美園行きのバスはなかったので、ちょっと歩いて西口に回ることにした。商店街の中を歩いたのだが、その雰囲気・店の規模はやはり「都区内の普通しか止まらない私鉄の駅」だった。
 西口は表玄関だったようで、東口より数段立派だった。たとえて言うなら「東京多摩地区の、有料特急以外は止まる私鉄の駅」といったところか。こちらも駅前からちょっと奥を探索しようと思ったが、時刻表を見たところ、浦和美園駅行きのバスがそろそろ来る時間だったので、待つことにした。
 ところがダイヤが乱れているようで、バスは全然来ない。浦和美園行きのくるバス停は、同方向のバス6系統分くらいでまとまっているのだが、そこには長蛇の列ができてしまった。そして30分くらい経過すると、浦和美園行きを含む三台のバスがまとめてやってきた。しかも浦和美園行きの一つ前のバスは浦和美園駅の3つ手前のバス停まで同じルートを走る。したがって、あれだけ長蛇の列ができたにもかかわらず、浦和美園行きのバスは、立席者がいないほどの込み具合だった。
 浦和駅前を出てすぐは大通だったが、すぐに二車線の道に入った。都内の道はゴチャゴチャしているが、このバスの経路の道もそれに優るとも劣らずゴチャゴチャしていた。六叉路があったり、四車線の通りと「筆記体のx」のような形で接していたりするなど、なかなか奇妙なルートだった。さらにバスが定期的に通っているにもかかわらず、バス同士の行き違いができない場所もあった。
 そのような市街を抜けると畑作地帯となった。なかなかのどかな風景で、こんなところの向こうに、「埼玉高速鉄道」の駅があるのか、と思えるほどだった。
 しばらくすると、東北自動車道を渡った。「そうか、東北道はこんな所を走っていたのか」などと思っていたら、バスが角度約60度の道を曲がり、再び東北道を渡った。「なんかすごい経路だな」などと思っていると、いきなり超大型の道路に入った。なんか別世界に突入したかのようだ。できたばかりなのか、まだアスファルトが乾ききっていなくて黒い。どうやらここに東北道とのインターチェンジを作るような感じだ。立派な道だが、車は全然走っていない。そしてその道にでもう一度東北道を渡ったところで、浦和美園の駅舎が見えてきた。
 時計を見ると17時20分、浦和駅の美園行きバス停に着いてから1時間以上の時間が経過していた。駅前広場は広々としているが、店などはいっさいない。バス停のポールが2〜3本立っているだけだった。
 時間もないのですぐ電車に乗った。白金高輪行きの電車は発車してすぐに地下にもぐり、その後地上に出ることはなかった。