県名を冠する小駅
2007/3/25
東京駅・大阪駅など、都道府県名を名乗る駅は、その名にふさわしい巨大駅である。一方、札幌駅や名古屋駅のように、都道府県名と異なる名前を持つ中心駅もある。そういう場合、それとは別に県名を名乗る駅がないのが普通である。愛媛県に「愛媛駅」はないし、北海道に「北海道駅」はない。
この「原則」にあてはまらない県が五つほどある。神奈川・兵庫・福岡・栃木・山梨(市)だ。このうち、栃木と山梨は、それぞれ県庁所在地である宇都宮・甲府と離れた別の町が県名の由来となったためにそのような形となっている。その中心駅が栃木駅・山梨市駅なわけだ。
一方、神奈川・兵庫・福岡は、それぞれ県の代表とされる駅と別に県名を名乗る駅がある、という形になっている。
一方、福岡の場合、もともと、商業的な中心地である「福岡」と行政的な中心地である「博多」という二つの町が隣接しており、それぞれに、西鉄と当時の国鉄が駅を作った事からこうなっている。
また、「兵庫駅」は神戸駅に隣接している。「和田岬線」と呼ばれる支線が分岐しており、新快速は通過するが、快速は停車する。もちろん、隣接する神戸駅よりは規模が小さいが、その神戸駅だって、三宮駅よりは規模が小さい。筆者は15年ほど前に一度利用した事があるが、県の名を冠するほどではないが、普通の快速停車駅、という印象が残っている。
というわけで、五つの「代表駅と異なる県名駅」のうち、四つまでは、一定以上の規模を持つ駅である。ところが、残る一つで、都道府県としては、東京に次ぐ人口を誇る「神奈川」を関する駅は、他の四駅とはかなり異なる。
場所は横浜駅と隣接しており、電車なら1分、歩いても10分くらいだ。駅の近くで、第一京浜と第二京浜が合流しており、横浜駅を中心とした商圏とも隣接している。
しかしながら、この「神奈川駅」は、その喧噪とは別世界とも言えるたたずまいにある。
この神奈川県の手前から、京浜急行と東海道線が同じ切り通しを走る。東海道線には、横須賀線・京浜東北線もあるので合わせて四複線区間となっている。しかし、JRのほうは、「各駅停車」に相当する京浜東北線ですら駅がない。
というわけで、京浜急行のみホームがあるのだが、停車するのは各停のみだ。その扱いの低さは、とても「県名を冠する駅」とは思えない。
さらに、改札を出てちょっと歩くとバス停があるのだが、その名前は「神奈川駅前」ではなかった。バスを降りてこの駅で乗り換える人がいない、という事なのだろうか。いずれにせよ、県名を冠しているにも関わらず、並の小駅より扱いが低い感じだ。
その扱いの低さもさることながら、さらに驚かされるのはそのホームだ。上りのほうはまあ普通なのだが、問題は下りホームだ。先述したように、このあたりで、線路は切り通しの中を走る。京浜急行の線路は一番端にあるので、下りホームは、切り通しの崖に張り付くように設置されている。その幅の狭さが半端ではないのだ。
駅には、ここより先は、乗降時以外は安全のため立ち入り禁止という白線がある。そこよりさらに内側に黄色の点字ブロックがあり、現在では、「安全のため、黄色い線より下がってお待ち下さい」という放送が流れる。ところが、この神奈川駅の場合、その「安全な地域」と「立ち入らないでほしい地域」の面積がほぼ同じなのだ。
さらに、ホームには看板があったり、電線用の鉄柱が立っていたりもする。その部分の場合、「安全地帯」の幅は20cmくらいしかない場所すら存在する。つまるところ、この駅の場合、「安全地帯」だけを通って端から端までを歩くことができないのだ。
「ホームの幅」というだけなら、路面電車の電停にはもっと狭いところもあるだろう。しかし、通過列車のある駅では、ここまで狭い幅の駅は他にないのではなかろうか。
まあ、神奈川駅の場合、出入り口は横浜寄りの一箇所しかない。しかも、停車する普通列車のほとんどが4両から6両編成だ。先述したような「安全地帯がない部分」は、ホームの品川よりにある。そこで電車を待っても、普段は車両が来ないため、実質的にそこで待つ人はいない。それゆえに、そのようなホーム幅でも問題がおきないのだろう。
というわけで、この「日本二番目の人口を誇る県名を持つ、都会のローカル駅」はいろいろな意味で印象に残る駅である。横浜駅に行った際に、ちょっと時間があれば、ここの下りホームでたたずんで見ると、異世界に迷い込んだ気分を味わえるかもしれない。