有明終点

2002/12/03

 「りんかい線」と埼京線が直通運転を始めたことにより、新宿と台場・有明地区が30分以内に行けるようになった。また、新橋からはゆりかもめが、東京駅からは快速バスなどの路線バスがこの地区に直通している。ビッグサイト・フジテレビなど特徴的な建物を中心に高層ビルが何本も建っている。
 しかし、15年くらい前まではこの地区は「陸の孤島」のようなところだった。東京駅から直線で5kmていどの場所であるにもかかわらず、地域のほとんどは雑草のみが生える荒涼とした空き地だった。「船の科学館」と「有明テニスの森」はあったが、あとは倉庫くらいしか建造物がなかった。
 交通もきわめて不便で、地下鉄有楽町線が1988年に新木場まで延びるまでの「最寄り駅」は地下鉄東西線の門前仲町駅、そこから有明地区まではバスで30分弱かかっていた。
 その有明地区のさらにはずれのような所に「有明終点」というバス停があった。有明テニスの森からちょっと進んだところである。「終点」というよりは折り返し点で、本線とも言える路線はテニスの森から台場地区に入って海上公園(船の科学館)、さらには海底トンネルを通って品川まで行く。それに対し、有明地区のみで折り返すバスが通りを右に入ってこの「有明終点」で折り返していた。

 このバス停に行ったのは1987年の1月3日の夕方だった。日中の有明地区には一度行った事があり、その寂寥とした光景は知っていたが、日の暮れた後はより一層物寂しさがあった。
 「有明終点」のバス停は、海に近いところにある。海の向こうには東京タワーをはじめ、都心のビルがよく見える。東京タワーまでは3kmくらいしかないのだ。しかし、振り返るとそこは何もない空間である。阪急百貨店の倉庫の看板だけは夜でも光っているが、他はほとんど何も見えない。バス停のまわりも、雑草の生える空地だ。
 ほとんど目の前には、アジアを代表する大都市である東京の象徴とも言える東京タワーがライトアップされてそびえている。しかしながら、自分の立っているところは何もない空地の真ん中なのだ。あまりのギャップに、何か異世界にでも降り立ったかのような気分になったものだった。

 その後、有明地区は「臨海副都心」として開発され、冒頭に書いたように高層ビルの立ち並ぶ地区となった。りんかい線・ゆりかもめの開通により、バス路線網も再整備され、有明地区で折り返すバスは東京ビッグサイトまで行くようになった。必然的にただの折り返し所でしかなかった「有明終点」は廃止されてしまった。
 りんかい線が大崎まで開業したのを乗りに行ったついでに、その「有明終点」を再訪してみることにした。国際展示場前駅で降りて、後ろの湾岸道路を渡ると有明テニスの森に出る。そこからバス通りに沿って歩く。行く前は変わり果てたような風景を想像していたが、思ったほどは変わらなかった。もともとバス通りのあたりは「臨海副都心」建設前から倉庫が立ち並んでいたが、それはそのまま残っていた。そして「有明終点」へ分岐する交差点を曲がる。しばらく進むと中古車の展示販売場があった。かつてはこのあたりに「有明終点」があったはずだが、跡を特定できるようなものは何もなかった。