幕張「高速」バス

2004/06/23

 総武線幕張駅の手前に、踏み切りがある。総武線の各駅停車・快速だけでも本数が多いというのに、それに加えて京成千葉線も並走するという「三複線区間」であるため、必然的に「開かずの踏み切り」となっている。
 もともと、幕張駅周辺の道路は狭い。そのうえ、この踏み切りがあるのだから、幕張駅をまたぐバス路線を作ると、定時運行ができなくなる可能性は高い。
 「幕張新都心」が誕生し、新たなターミナルとして海浜幕張ができた。既存の幕張駅北口から北上し、長作町という所を結ぶバスにも、海浜幕張延伸の要望があったのだろう。しかし、上記の理由で、幕張駅から単純に真南に路線を延長して海浜幕張を結ぶ事はできない。その結果、非常に画期的な経路ができた。

 まず、長作町からしばらくは、既存の幕張駅行きと同じ路線を走る。しばらくすると高速道路である京葉道路と交差する。ここで、海浜幕張行きはその京葉道路に入るのだ。しかし、京葉道路は海浜幕張に通じる道ではない。習志野市との境界付近にある幕張インターを通り、そのまま東京方面に向かう道なのだ。
 しかし、この「海浜幕張行き」バスは、海浜幕張とは70度くらい違う幕張インターを目指す。そして、幕張インターで降りると、今度は国道14号線を東に向かう。実際に幕張インターから海浜幕張に行くには、インター近くにある交差点を曲がって、幕張本郷−海浜幕張行きのバスと同じ経路を走ったほうが距離は短い。しかし、このバスはあくまでも「踏切を迂回して幕張の南側に行く」という立場のためか、わざわざ大回りして幕張駅の近くまで行くのだ。
 そして、幕張駅から真南に歩いて600mくらいのところにある「ファミールハイツ前」というバス停まで、ノンストップで国道14号線を走るのだ。ここからやっと本来の方向である南に向きを変え、海浜幕張駅に行くのだ。直線距離なら武石インターからファミールハイツ前は約1.8kmだが、そこを2.5倍近い4.5kmをかけて行くのである。逆に言えば、それほどに幕張駅前の踏切を渡るというのは大変なのだろう。なお、京葉道路は高速道路だが、この武石−幕張間は無料で走ることができる。この措置も、幕張・武石・長作などから国道14号線方面に行くのが不便なゆえなのかもしれない。
 ただ、そこまで苦心してルートを作った割には、乗客はつかなかった。かつては5往復ほどあったそうだが、現在は長作町→海浜幕張が休日運休で長作町7時45分発が1本、海浜幕張→長作町が土休運休で海浜幕張18時半発が1本あるのみである。

 その「高速道路を走る超ローカルバス」に平日の休みを利用して乗ってみた。我が家から武石インターバス停までは30分くらい歩けば行く事ができそうだ。ある程度余裕をもって出た事もあり、武石インターバス停に着いた時点では、海浜幕張行きが来るのは15分後くらいだった。その間待っていてもしかたがないので、路線に沿いながら歩く。途中、幕張駅行きバスとすれ違ったが、つり革がほぼ全部ふさがるくらいの活況だった。
 しばらくすると長作町入口というバス停についた。ここにもバス停には6人くらい待っている。しかし、海浜幕張行きまではもう少し余裕があったので、もう一バス停分歩く事にした。
 この長作町入口から道幅が狭くなり、1.5車線ほどになった。バスと一般車がすれちがう場合は、バスがやや広いところで一時停車するほどの狭さだ。「なんかすごい所に来たな」と思いながら歩く。すると、何の変哲もない軒先で二人ほどの人が立っていた。
 「この立ち方はバス待ちだよな。しかし、バス停のポールはどこにもないぞ」と不思議に思った。しかし、そろそろ海浜幕張行きのバスが来る頃だ。仕方がないので、筆者も一緒に「バス待ち」を始めた。しばらくすると、周囲から人が来て、次々と「バス待ち」を始めた。
 数分すると海浜幕張行きのバスが来た。しかし、幕張駅行きと違って、乗客数は少ない。一緒にバス待ちしていた人もほとんどがそのまま幕張駅行きを待っていた。そしてバスに乗って発車した時に、道の向こう側に表記が良く見えないポールがあるのを発見した。バスは今歩いた道を進む。次の長作町入口でも並んでいた人はいたが、乗ってくる人は数人だった。
 そして武石インター入口を出るといよいよ京葉道路だ。一旦京葉道路を渡った後、右に曲がって合流する。「無料区間」なだけに、料金所などはない。しかし、その京葉道路は渋滞だった。これは今日に限った事ではない。朝の交通情報などを聞くと必ず京葉道路の名前が出てくほどの慢性的な渋滞区間なのだ。その渋滞区間を10分くらいかけて幕張インターまで行く(※なお、夕方の便が走る時間帯は渋滞がなく、長作町行きのバスは高速道路を快適に走っていた)。
 途中、幕張本郷駅付近で、一般道とオーバークロスした時、幕張本郷から海浜幕張に行くバスが見えた。同じ「海浜幕張発着」でも、こちらは1日270本ほど走る超過密路線だ。こちらは休日運休だから1年に310本ほど、逆方向の海浜幕張発に至っては土日休みだから1年に260本なわけである。「1日の本数≒1年の本数」というのだから恐るべき差だ。
 そして、幕張インターで降りて、今度は国道14号線を走る。こちらはすいており、快適に進む。高速に乗っている区間が一番遅かった、というのも面白い。そして、「ファミールハイツ前」に止まった。武石インターを出てから15分くらいだっただろうか。そこで右折し、放送大学・県立幕張高校入口・カルフール前を経てほどなく海浜幕張に着いた。

 こうして、経路・本数のいずれにおいても不思議なバスに乗ることができた。現在問題の幕張駅前の踏み切りには地下道を通す工事が行われ、完成が近づいている。これができると、この「高速」バスの存在意義はなくなるような気もするが、果たしてどうなるだろうか。面白かったので存在している間にもう一回乗ってみたいものだが・・・。

※2004年8月追記

 2004年8月5日より、幕張の「開かずの踏み切り」の対策となる地下道が開通し、新たに地下道を通って海浜幕張と幕張駅・長作町方面を結ぶ路線が開業した。それにともない、本路線は廃止となった。