タイガース選手別応援歌について

2004/05/25



 筆者がタイガースの試合をラジオなどで聞きだしたのは、1982年くらいからだった。丁度選手別応援歌(ヒッティングマーチ・HM)が出始めた頃で、特定の主力選手に限り、特別な曲が流れるのが面白かった。以来20数年、いろいろな選手別応援歌を聞いている。それらの曲について、思いつくまま、いろいろ書いてみたい。
 なお、タイガース選手別応援歌のサイトとしては、「筑前屋」さんの「MegaphoneBest」が質量ともに充実していて、お勧めである。筆者も新応援歌が出るたびに、このサイトで歌詞を確認している。

 選手別応援歌である以上、選手に「何か」を求めているわけだ。その内容によって、歌詞を分けると、以下のようになる。

  1. 本塁打を求めるもの
  2. 安打を求めるもの
  3. その他

1.本塁打を求めるもの

 選手別応援歌が出始めた頃は本塁打を求めるものが圧倒的に多かった。そのうちの究極のものは、真弓明信選手(現バファローズヘッドコーチ)の応援歌だ。とにかく歌詞は「真弓、真弓、ホームラン」の繰り返し。これが、浦安の遊園地で活躍する鼠キャラの曲に乗って流れるわけだ。真弓選手の印象は「長打もある一番打者」だったが、スタンドはひたすら本塁打を求めていたわけだ。
 そして、この応援歌は独特の「進化」を遂げた。最初は歌にあわせてメガホンを叩く、という基本的な応援方法だった。ところが、いつの間にかメガホンを垂直に持ち、左右交互に上につきあげる、という応援の仕方が普及しだした。今で言うところの「メガホンダンス」のはしりとも言えるかもしれない。
 さらに、この応援スタイルは「真弓踊り」という驚異的な応援方式に進化(?)した。「メガホンダンス」をしながら、左右に移動するのだ。神宮の外野席で応援していた時は、真弓選手の打順が近づくと通路に人々が降りてきて、打席が始まると左右に動き出していた。
 なお、先日、マリンスタジアムでマリーンズ対ライオンズ戦を見ていたら、レフトスタンドのライオンズファンが好機にかつての秋山幸二選手の応援歌にあわせて「真弓踊り」をしていた。

 真弓選手のみならず、初期のタイガースの応援歌のほとんどは、本塁打を求めるものだった。岡田選手(現監督)の応援歌も「岡田・ホームラン」で構成されている。ただ、打席に立った状況によって「ホームラン」につく修飾語が異なり、例えば満塁だったら「満塁満塁ホームラン」に、走者がいなければ「場外場外ホームラン」となる。なお、この曲は現在「チャンスマーチ」として使われている。
 また、掛布雅之選手の場合は、「ホームラン」という言葉は使われていない。その代わりに「ここまで飛ばせ、放り込め」という風に間接的に本塁打を要求している。
 この頃の曲で一番好きだったのはランディ=バース選手の応援歌だった。「ライトーへレフトへホームラン」というサビの部分の独特の曲調が気に入っていたというのもあるが、とにもかくにも、本当にライトへレフトへ(ついでにバックスクリーンへも)本塁打を叩き込んでくれたのが嬉しかった。

 上記の四人は、それこそ優勝時に「30発カルテット」と呼ばれたほど本塁打を打っているから、このような応援歌は違和感がない。ただ、安易に「本塁打」を歌詞に使いすぎて、「そら無茶だろ」というような選手別応援歌も誕生してしまった。
 たとえば、平田勝男選手(現ヘッドコーチ)の応援歌である。「かっとばせ」「ホームラン」で構成された単純なものだが、12年の現役生活で23本の本塁打数だった平田選手にとっては酷な要求と言えよう。さすがに応援団も問題かと思ったのか、しばらくして、「守備の華麗さを求める歌詞」に変更された。なお、筆者の知る限り、タイガースの応援歌において「守備」を主題にした曲は他にない。
 また、吉竹春樹選手(現守備走塁コーチ)に対しては「命を賭けろ」とまで強硬に本塁打を要求していた。これまた15年間で34本(ライオンズ移籍後の成績も含む)の吉竹選手には無茶と言えるだろう。さらに、この曲は久慈照嘉選手に引き継がれた。こちらに至っては、12年間で6本塁打(昨年まで・ドラゴンズ在籍時も含む)である。その後、久慈選手が移籍後は沖原選手に引き継がれた。これまでの二人に比べるとパンチ力がある印象はあるが、3年で7本(昨年まで)という本塁打数ではやはり、「命を賭けろ」は荷が重い。
 最近の傾向だと、強打者系の選手以外には「本塁打を求める曲」は減っている。ならば、これを機に沖原選手の曲も見直してもいいのではなかろうか。あと、一時期他球団にいたとはいえ、かつての新人王で、現在も貴重な守備要員であるばかりか、打席が廻ってくればしぶとい打撃を見せてくれる久慈選手には、ぜひ独自かつ特徴をつかんだ応援歌を作って欲しいものだ。
 あと、本塁打を求めていると思われるもの(?)として、かつて在籍したブロワーズ選手に使われた(入団当初のアリアス選手にも使われていた)ものに、「六甲かすめる弾丸ライナー」という歌詞がある。しかし、甲子園は本塁から海側に向かって外野があるため、山をかすめるのは全部ファウルなのだ。まあ、「大阪湾に飛び込む弾丸ライナー」というのもちょっと冴えないかもしれないが。

2.安打を求めるもの

 厳密に言えば、「かっ飛ばせと言うが、本塁打は求めていないもの」となる。1990年代以降はむしろこちらのほうが多いかもしれない。
 外国人ながら、一発より確実な打撃が売りで首位打者になったオマリー選手(移籍してスワローズでMVP。のちにタイガース特命コーチも)に本塁打を求めない曲を使ったのはかなりいい味を出していると言えよう。また、このは、節も歌詞も個人的には大好きだ。
 まあ、これまで「ホームラン」としていたものを「振り抜けよ」とか「ボールに食らいつけ」などという言葉に変えただけ、という解釈もできる。とはいえ、先述の「吉竹→久慈→沖原」の曲のように、「んな無茶な」というのがなくなったのもいい。同時に、選手の特徴によって「長打を求める」「確実な打撃を求める」をある程度分けているのも「進化」と言えるかもしれない。
 ちなみに、筆者が好きなのは、先述のオマリー選手を筆頭に和田選手・亀山選手→藤本選手、檜山選手といったあたりだ。

3.その他

 これは「精神論みたいなもの」「走塁に期待するもの」「守備を期待していると思われるもの」に分類できるのだが、実質的には最初のが8割くらいで、残る二つは希少である。
 「守備」は先述した平田選手のものくらい、「走塁」は現在活躍中の赤星選手と、在籍中から足に定評があり、ホークスに移籍した年に盗塁王になった大野選手のみ(他に、走塁系の曲を作られながら、一軍で活躍する事のなかったため、実際には使われなかった岡本という選手もいたが)。まあ、この両選手を「走塁系」にしたのは適切だろう。

 上記三つは「例外中の例外」という感じだ。残るのは「精神論みたいなもの」になる。このはしりと思われるのは、北村選手→新庄選手の「それゆけ」で始まり、「根性見せろ」で終わるものだろう。最初に書いたように、当時は本塁打を求めるのがほとんどだった中、かなり異例の応援歌だった。まあ、北村選手も俊足巧打のタイプなので、こちらのほうが適切なのだが。
 この分野の曲は、他球団から移籍してきた選手に対して使われる事が多い。「まずはタイガースの一員として」という事なのだろうか。現行のものでは、片岡選手の曲が「関西魂見せてくれ」と、彼が「地元選手」である事を強調しつつ応援しているので気に入っている。あと、1990年代前半にホエールズから移籍してきたパチョレック選手のも曲調・歌詞ともに気に入っていた。

 ただ、それ以外のものには、違和感を覚えるものが多い。かつてドラゴンズ一筋、という意識だったのに、不本意なトレードで移籍してきた大豊選手(現ドラゴンズスカウト)に、「道は一筋」と歌っているのは、「とにかくもうタイガースでやるしかない」と強制しているような印象があった。しかし、大豊選手はドラゴンズ戦には強かったが、当時の野村監督とうまくいかず、星野ドラゴンズ監督(当時)に相談にいったりして問題になったが。そして最後にはドラゴンズに復帰し、結局「道はドラゴンズ一筋」だという事を証明してしまった。
 また、石嶺選手(現ドラゴンズコーチ)の曲のように、「道を行け・光ありて」など、宗教の説教みたいな歌詞のものもあった。現行でもアリアス選手の「メシア・from・USA」などもそれっぽい。
 率直に言って、最初に挙げた二つを除けば、どうもこのタイプのものは好きになれない。やはり、応援歌であるのだから、野球のプレイに関係する語句は混ぜたほうがいいと思う。

4.歌以外の部分

 というわけで、歌について思うところをいろいろ書いてきた。ただ、応援歌には歌詞と節以外の部分もある。一つは真弓選手のところでも述べた「メガホンダンス」というものだ。1985年優勝の頃は、真弓選手のみならず、バース選手・掛布選手・岡田選手などにもあったが、たいていは、「ホームラン」の部分で、メガホンで「ここまで飛ばせ」というような仕草をするだけだった。
 しかし、数年前から「檜山ダンス」というものが登場。なかなかいい感じで。筆者も気に入っている。ちなみに、檜山選手公式サイトでは、動画のコーナーで本人自ら披露しているから、よほど気に入っているのだろう。また、ライトスタンドのススメというサイトでは、「赤星ダンス」「濱中ダンス」ともども、分かりやすい図解と動画で説明している。
 なお、ホークスは各選手の応援歌とともに、綿密なメガホンダンスの設定もあるようだ。一度紹介サイトを見たが、設定されている選手の多さに驚かされた。

 もう一つ、応援歌に入る前の「ファンファーレ」というのがある。かつては坪井選手、広澤選手のが好評だった。しかし、坪井選手は移籍し、広澤選手は引退した。そして、一昨年移籍してきた片岡選手の応援歌において、ファイターズ時代から使われてきたファンファーレがそのまま使われた。しかし、その際に、応援とは言えないような失礼な歌詞が出回り、片岡選手自ら公式の場で再三抗議する事態になった。そのため、今年から廃止となり、現在のタイガースでは、ファンファーレはなくなっている。

 出始めの頃は、このような応援は「うるさい」「試合を見ていない」などと言った批判も多かった。しかし、定着した現在は、先述の片岡選手のように、打席に立っている時も選手は応援歌を強く意識するようになっている。先日もある解説者が「自分の打席で違う人の応援歌が流れると萎えた」などと言っていた。
 実は筆者も体力が衰えた事もあり、ここ数年は外野スタンドでの応援はしていない。とはいえ、TVで見ながら応援歌を口ずさんだり、「メガホンダンス」をしている人たちを見るのは楽しい。また、内野スタンドで観戦する時も、小声ながら応援歌を歌っている。
 今後も、ぜひこの日本発の「野球観戦文化」が選手たちにも好かれながら発展していけばいいものだ、などと思いながら今日もTV観戦をしているわけである。

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