地球を呑む(手塚治虫氏)

2000/04/24

発表時期は不明。筆者が漫画文庫で読んだのは1984年ころ。
   中学校の時、ある書店の漫画文庫のところで偶然このような題名の作品を見つけた。壮大なタイトルな上に、作者は「漫画の神様」である。相当期待して手に取った。
 さほど細かく覚えていないのだが、主人公は酒が強く、また股間も巨大、という設定。「地球を呑んでみたい」などと口にする豪快な男である。
 その男がある日、人里離れたところにある館に迷い込む。そこには、何人もの絶世の美女たちがいた。
 主人公は美女達による歓待を受けるが、何か不審なものを感じ、その館を抜け出す。しばらくして、ある老人から、その館は数十年前にも存在し、その時も同じ美女たちがいた事を聞かされる。その老人は軍隊の部隊ごとその館に迷い込んだ。同じように歓待を受け、泊まったのだが、偶然、目が覚めて、ある部屋をのぞいたところ、「子供の腕ほどの大きさに圧縮された同僚達が転がっていた」のを見た。そこで命からがら逃げ出したという。
 主人公は謎の館に興味をいだき、再び訪れる。そこで再び出会った美女の中の一人に「どう、私を呑んでみる?」などと言われて一戦まじえる。ちなみに、その「誘惑シーン」で、彼女の背景は地球と巨大な杯であった。
 このあたりで確か1巻が終わった。時間の都合で2巻が読めず、その日は帰った。しかし、その豪快な題名と、謎に満ちた展開に「これはすごい作品に違いない、早く2巻が読みたい、と思ったものだった。

 そして、しばらくして読んだ待望の2巻の内容は、衝撃的だった。一戦を交えた結果、酒と股間の強さにその美女は主人公に惚れる。そして、彼女たちの一族の正体と野望を主人公に明かすのだが、その内容は恐るべきものだった。
 彼女たちの一族は何かの恨みがきっかけで、国家転覆の意図を持った。彼女たちが武器としたのは「精巧な人間の着ぐるみを作る技術」であった。そこで彼女たちはまず「究極の美女」の着ぐるみをつくって、身にまとい、あらゆる男たちを悩殺した。そして眠らせた男たちから着ぐるみを型取りした。
 かつて館に迷い込んだ兵隊が見た「子供の腕ほどの大きさに圧縮された同僚達」とは人間でなく、型取りされて作られた着ぐるみだったのだ。
 そして彼女達は政財界の要人たちの着ぐるみを採取し、それを利用して、国家を混乱させよう、と計画してわけなのだ。
 主人公にほれた女は、着ぐるみを捨て、本当の自分を主人公に見せる。そして主人公も彼女を愛する。しかし、彼女一人が反対したところで、一族の宿命を覆す事はできず、計画が実行され、国家は転覆し、内戦状態のようになる。
 そして彼女を救おうとした主人公も、罠にかかって、あっさり爆死してしまい、話も終わる。

 とにかく強引な話の流れと、一貫性のない収束であった。題名や一巻で提示された謎は一体何だったのだろうか、と当時の筆者は狐につままれたような気分になったものだった。
 しかし、それで免疫ができたおかげで、数年後に同じ作者の「アドルフに告ぐ」を読んだ時、序盤が壮大な構想・複雑な人物設定だったのが、途中からただ単に史実をなぞっただけのような展開となっても、さほど驚くことがなかった。また、「ブッダ」で釈迦がヒョウタンツギを食べて食中毒死した時も、「ま、こんなもんだろう」という思いながら読むことができた。



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