スプリンター
- (小山ゆう氏)
- 2007/9/9(2008/2/4追記)
- 掲載・1980年代後半の週刊少年サンデー
「がんばれ元気」が大ヒットした作者が、数年ぶりにサンデーで連載した作品。題名の通り、徒競走を題材とした陸上漫画なのだが、色々な意味で異色すぎた。前半では、陸上と並ぶもう一つの主題が、後半では陸上の頂点を極めるための描写が、別の意味で心に残ってしまっている。
主人公の結城光は、結城豪太郎という、日本を代表する企業家の末の養子、という設定で登場する。この豪太郎は、自らのグループの後継者として、能力のある少年を養子とし、経営者としての英才教育を施すという方針を持っている。その眼鏡にかなった一人が光なのだ。
その光には、経営と共に、100m走の才能もあった。それが、ヒロインの裕子や、陸上指導者の神野との出会いで、明らかになる。そして、神野は彼を陸上の世界に連れて行こうと尽力する、というのが前半の展開だ。
ところが、結城家では、義兄二人が豪太郎に叛乱を起こす、という展開になる。一度才を見いだした養子でも、一旦、能力を見限るとあっさり追放するという豪太郎の方針に、自らを守るために行ったものだった。
これまで築き上げたもののほとんどを失い、落胆する豪太郎に代わり、指揮をとったのは光だった。その才能をいかんなく発揮し、唯一残された結城電鉄をテコに、ライバル社と組むなどし、義兄二人を追い詰めていく。一方、経営に専念した光は、陸上のほうは忘れたように見え、神野は失望していた。
この時、光は、結城電鉄の新線で東京と伊豆を結び、リゾート開発をする、という方策を使ったように記憶している。実際問題として、1980年代にそんな新線を造ったら、少々のリゾート開発では元が取れないだろうと、当時10代だった筆者は思ったものだった。
そして、義兄達を打ち負かした光だが、その地位をあっさり義父と義兄に譲り、スプリンターへの道に転向する。ここまでが、漫画史上空前でおそらく絶後の「陸上&経営漫画」の部分だ。
そして、陸上に専念することになった光だが、同じ100m走でも、世間一般で行われているものと、この漫画での100m走は異なっていた。
この作品において、日本人や白人が100m10秒を切るためには、「神の領域」なるものに達しなければいけないのだ。その領域に入るために、走る前から精神を統一し、獣になった自分をイメージしたりする必要がある。そして、その領域を極めることができなかったものには、厳しい反動が待っている。あるライバルは、その域に達する寸前に動きが止まり、そのまま廃人のようになってしまう。またあるライバルは精神は無事だった者の、アキレス腱を切断して、再起不能となってしまうのだ。
前半が「陸上&経営漫画」だとしたら、後半は「陸上宗教漫画」とでも言ったところだろうか。
さらに、この領域には人種的な差違があるらしい。同じトップスプリンターでも、黒人選手には、そのような宗教的な「神の領域」は特になく、ただ走っているだけだそうだ。アフリカ出身だからといって、チーターと一緒にしてしまっているのだろうか。
もっとも、これが黒人差別なのか逆差別なのかわからない。考えようによっては、日本人や白人が人生を賭してなおかつ達することができない「神の領域」とやらに、彼らはいともたやすく達している優れた人種、という考え方もできるからだ。ただやはり、スポーツというよりは宗教的な観念を語りながら、「黒人は違う」というのは、いかがなものか、とも思った。
そして最後の走りを迎える。神々しい表情で走った光だが、神の領域に達したのか達しなかったのか、達したとして肉体や精神は維持できたのか、そのあたりは読んだはずだが、記憶にない。この記事を書く際にネットで調べたところ、どうもそのへんはうやむやに終わらせたようだ。
まあ、繰り返しになるが、この作品は、前半が「陸上&経営漫画」であり、後半が「陸上宗教漫画」である事が筆者の記憶に焼き付いている。そのため、主人公の最後の成績などは、記憶の範疇外なので仕方ないのだが・・・。
なお、これを書いているうちに一つ気になった事がある。連載当時はそれこそ「リゾート法」ができた頃だった。そのため、光のとった「伊豆へ新線を造ってリゾート開発」というのも、敷設の経費を考えなければ成立したのかもしれない。
しかし、その後の日本経済の動きにより、「リゾート法」で造られたものの多くは、廃墟のようになった。ただでさえ、その核になって動いた光が去ったわけだ。おそらく、光の成果である、「伊豆のリゾート地」は、その後大変な事になっただろう。そして建設時の巨額な資金を回収できなかった結城グループは、下手すると潰れてしまったのでは、などと今になって気になってしまった。
200//2/4追記
上記の伊豆開発について、森平様より、ご指摘をいただきました。許可をいただいたので、掲載させていただきます。
「心に残るヘンな作品」の「スプリンター」について触れさせて頂きます。
批評には直接関係のない細かな点なのですが、伊豆開発の内容について。
原作が手元にないとわからないと思いますので、その詳細をご連絡しておきます。
そちらでのご指摘と同じく、作中においても「レジャー施設では費用の回収ができない」として義兄から言及されていました。
それに対する主人公のアイデアは「東京への通勤を可能とした新しい都市をつくる」というものです。
「都心まで45分の格安の特急をしたて、全戸に双方向CATVシステムを完備し、自社系列のショッピングやレジャーによって利益をあげる」
これは、非常に魅力的な構想だと感じたのですが、いかがでしょうか?
ついでに言うと、義兄は3人でした。逆襲されたあとに、一人だけ家を出たので、残ったのは二人だけになりますが。