7.新宿・ベルク

2018/1/2

 1990年代の半ばに四年ほど、東中野に住んでいた。当時の職場は千駄ヶ谷にあった事もあり、仕事が終わってから帰宅の電車に乗り、新宿で途中下車して遊ぶ、というの事をよくやっていた。
 そんなある日、東口改札で降りてアルタ方面に向かおうとしたら、何か食べたくなった。するとちょうど蕎麦の出汁の香りがただよってきた。振り向いて見たら、立ち食いそば屋と、その隣にある、「BERG」と書かれた洋食系の店の看板が見えた。
 蕎麦よりは洋食気分だな、と思って店に入った。メニューを見たら、ホットドッグが一押しのようだった。そこで、コーヒーとセットで頼んだ。
 注文したら、店員さんに「当店のホットドッグは、ケチャップもマスタードもつけない『プレーン』がおすすめですが、どうしますか?」と尋ねられた。
 ケチャップもマスタードもないホットドッグなど、これまで聞いたことがなかった。ついでに言うと、店頭でこのように言われたのも初めてのことだった。
 せっかく勧められたので、その「プレーン」を注文した。当然ながら、皿にはパンにソーセージをはさんだだけの「プレーンドッグ」が出てきた。
 食べてみて、率直に驚いた。ソーセージからは肉汁が滲み出てくる。口に入らない分はパンが吸収する。そのため、パンの味も深くなる、という感じだった。
 確かに、これだけ味がしっかりしていれば、ケチャップやマスタードなど、必要はないだろう。その作り手の自信が伝わってきた。以降の二十数年間でいろいろなホットドッグを食べたが、このベルクドッグ・プレーンより美味しいと思った事は一度もない。
ベルクドッグ・プレーン
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 あまりの美味しさに、早速、当時同居していた弟に伝え、二人で行った。弟も絶賛し、その後、友達にも紹介していた。自分もその後、色々な人にこの店を紹介した。長年お世話になっている北海道在住の方に紹介したところ、すっかり気にいって下さり、東京に遊びに行った際は必ず行くようになってくださった。店の雰囲気もいいので、とにかく他人に勧めたくなるのだ。
 また、ベルクの名物としてビールも外せない。ヱビス黒の生ビールが346円と缶ビール並の価格で飲めるのには本当に嬉しい。さらに、ギネスビールなど、さまざまなビールが用意されている。日本酒も用意してあるが、そのメニューが「本日のきまぐれ純米酒」であるところも、筆者の好みに合致している。
 ちなみに、このアルコール類は、朝から提供している。筆者は「アルコールは日が暮れてから」という主義なので、基本的に利用していないが、多くの「朝飲み」「昼飲み」好きの方々が愛用している。

 また、この店の特徴に、客の立場での接客、というものがある。
 たとえば、この店の昼定食に「ホットドッグブランチ」というのがある。11時から17時限定で、ホットドッグ・コーヒー・ゆで卵半分・ミニサラダ・パセリがついて525円というものだ。
 ホットドッグとコーヒーだけで514円だから、かなりお得なセットである。
 ある日、筆者が10時55分頃にベルクに行った。「11時からセットがあるけど、ちょっと早いから無理かな」と思ってホットドッグとコーヒーを注文した。すると、店員さんが、「11時になりますので、ホットドッグブランチにできますよ」と声をかけてきた。
 少しでも儲けようと客に不要なセットやパックを売りつける店はよく見る。しかし、この場合、店としては11円でゆで卵半分・ミニサラダ・パセリを売る事になるわけである。セットを知らない客が定価でコーヒーとホットドッグを注文したほうが、店としての利益率はいいだろう。
 もちろん、そういうサービスによってファンを増やして長期的な利益につなげる、という意図だとは思う。とはいえ、今の短期的な儲けばかりを目指して客から少しでも取ってやろう、という風潮と比べると、明らかに異なっており、感心させられている。

 筆者は1997年に千葉に転居した。それ以降、以前見たいに、新宿でちょっと途中下車してベルク、はできなくなった。
 気軽に利用できなくなった分、ベルクに行ける機会は貴重になった。それだけに、新宿に行けばベルクに寄るようになった。
 そんななか、2007年には駅ビルを経営するJR東日本の子会社から「追い出し」を受ける、という事態が発生した。しかしながら、ベルク存続を求める1万人もの人の署名もあり、ベルクは退店することなく、新宿駅で営業している。それだけ多くのファンに支えられている、という事なのだろう。
 そのおかげで、筆者も新宿に行くたびに、ベルクドッグや生黒ヱビスを楽しめるわけである。ぜひとも、末永く存続して欲しいものだ、と強く願っている。
 参考・ベルク公式サイト

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